伝統芸能の継承者たち

第一回 中日落語会【伝統芸能の継承者たち】

第一回中日落語会が5/23(日)に開催されて2週間がたち、コロナ感染者をだすことなく無事に終了できた。やっとここでコラムアップができるのでご報告とともに記録としてここに諸事を記しておくことにしよう。
中日落語会の構想は、実に5年ほど前にさかのぼる。落語評論家の山本益博さんが年に4回開催されている落語会にお邪魔して、そのあまりの面白さと奥深さに落語初心者のわたしは驚いてしまい、同時にこの正統な江戸落語を名古屋でも聴いてみたい、できれば多くの人にも聴いてもらいたい!と思い始めたのがキッカケだった。それから本当にいろんな障壁を乗り越えて、中日新聞社芸能事業部のご努力のおかげでやっと開催にこぎつけたというわけだ。
わたしが、東京の真ん中で江戸の昔から継がれてきた話芸を聴いた時、すぐさま頭に浮かんだのは、落語は生きるヒントを与えてくれるということだった。落語は大笑いするだけではない、人情噺には涙するだけじゃなく、今も昔も人はみな同じことで苦しみ悩み、愛しあったり助けあったりしてきたのだということを、目の前で繰り広げられる物語からあらためて知るのである。そして噺家は、扇子と手拭いを扱いながら、老若男女を演じ分け、観客は、自らの頭の中で物語を想像して映像化し、物語の中へと入っていく。演者と客が心をひとつにしてともに作り上げる芸能なのである。

そして山本益博さんプロデュースのなによりも大きな特徴は、落語会全体のストーリーを組み立てて、そこから演目を噺家さんにあらかじめ依頼するところにある。今回は中日新聞社がはじめて取り組む名古屋での落語会なので、落語をはじめて聴く人も聴き慣れている人も惹きつけられるような番組構成を考えてくださった。
 お菊の皿〜柳家喬太郎
 仲村仲蔵〜春風亭一之輔
 あくび指南〜春風亭一之輔
 おせつ徳三郎〜柳家喬太郎
この番組構成がいかに面白く意味があって、多くの笑いと涙を誘ったかについては、来場くださった方々が理解してくださっていると思う。



会場ではコロナ対策を万全に。消毒・検温・マスクはもちろん、楽屋と客席の行き来を最小限にし、私語自粛案内カードを係員がしめしながら客席を回って歩いた。山本さんをはじめ、師匠連、前座さん、囃子方さんにもソーシャルディスタンスをお願いした。そんな緊張感あふれる中、舞台袖で聴いた喬太郎師匠と一之輔師匠の全身全霊をかけた噺に、わたしは泣き笑い、また笑って泣いた。
落語会は無事に緞帳を下ろし、師匠連をお見送りし、会場を片付けて、最後にプロデューサーである山本益博さん夫妻を名古屋駅までお送りした。新幹線の改札口で手をふってお別れした途端に緊張がほぐれたのか、おなかが急にぎゅるぎゅるいいだした。昔から心配事やら緊張事があるとおなかを壊す癖があるわたし。閉店時間が迫る高島屋に急ぎ足で向かうと、ロープを張って閉店しようとしていたスタッフの方に、真っ青な顔をして「トイレ貸してください」と泣きながら頼み、ほぼ無理やり、ロープをはずしてもらってトイレに直行。わたしの第一回中日落語会は、高島屋のトイレの中で終演を迎えた。


次回は8月29日に開催される。こちらは山本さんプロデュースではないが、花緑師匠や白酒師匠、白鳥師匠など人気噺家がそろうので、これもまた楽しみ!チケットは中日新聞社のあたらしいチケットサービス・BOOWOOで販売中。ご興味ある方は私もすこしチケット預かりがあるので、おっしゃってください。


名古屋平成中村座【伝統芸能の継承者たち】


今年2月のスターウォーズ展を皮切りに、今月は名古屋平成中村座、来月は大相撲と、名古屋城で開催される文化系活動が活発である。今日も着物美人がたくさん平成中村座に集まっていて、真夏日の名古屋にもかかわらず、着物美人エリアには一服の涼にも似た清々しさを感じた。私も着物で来るべきだったなぁと一人残念がっていたのだけど、会場でお席についてから、やっぱり洋服でよかったと思い直した。お席の前半分くらいはいつもの平成中村座らしく床に座るスタイルだからだ。足が痛いし、着物だとちょっと座りにくく足も崩しにくいのだけど、舞台との一体感は格別なものがある。江戸時代の芝居小屋を再現したいというのが勘三郎さんのご意思だったんですもの。その雰囲気を味わおうじゃありませんか。


平成中村座が初めて名古屋にやってきたのは、2006年。屋号の中村の名前の由来が、名古屋市中村区であるという説を元にして、中村区にある同朋高校の体育館を芝居小屋に仕立て、確か3日か4日だけの限定公演だったと記憶している。左の写真はその時に記念で購入したTシャツ。同朋高校と書かれているので、これを着ていると、同朋高校の方ですか?と聞かれたことがあったっけ。


さて、今回は勘三郎さんが亡くなって5年たち、勘九郎さんと七之助さんが後を継いで行う最初の平成中村座。きっと勘三郎さんも名古屋城に来ていて、見守っているんだろうなぁと思いながら、息子の立場になったり親の気持ちになったりしながら、舞台を楽しませていただいた。どんどん勘三郎さんに似てくる勘九郎さん。どんどん美しくなる七之助さん。夜の部の最後は、ご当地名古屋の日舞流派・西川流と深い縁のある演目「仇ゆめ」。狸が傾城に恋をしてしまうが、それが人間に知られてしまい、狸は恋い焦がれる傾城への思いを胸に命を落とすと言うお話である。イヤホンガイドのおくだ健太郎さんのの独自の解釈も加わって、狸(自然と共に生きている立場)と人間(自然を破壊する立場)の関係性やら、父と子の芸の伝承やら、はたまた思いを遂げられなかった狸の非業の死やらを考えてしまい、名古屋城を借景にしたラストシーンには、もう涙を隠すことはできなかった。



勘三郎さんは間違いなく会場に来ているな、と本当に思っていたのだけど、それには仕掛けがあって、隠れ勘三郎アイテムが会場内に18か所あるのだそう。十八世にちなんでなのだろう。こんな楽しい仕掛けも平成中村座ならでは。そしてスタッフの方たちのおもてなし精神にも本当に驚いた。席やトイレの誘導には、マイクを使わずにお客さんの心にちゃんと届くように心を込めて、時折ジョークを交えながら、見事に仕切っておられた。歌舞伎を楽しんでもらいたいという素直な気持ちがホスピタリティとして現れていて、これもきっと勘三郎さんがずっと思い描いた芝居小屋の形なのだろうと思うと、またまた泣けてくるのであった。


やっとかめ文化祭、今年も!【伝統芸能の継承者たち】


この10日間で、高山、有馬、京都、箱根に出掛けた。
いずれの地もインバウンドの波を受けて
外国人、特にヨーロッパ系の人が多く旅行していた。
私が驚いたのは、外国人じゃなくて日本人。
言葉が通じずに困っている人を見かけて
私のかたことの言葉で
道案内やメニュー案内(笑)する羽目になったことが
何度かあったけど
ええ格好しいの私は、
ついつい頭の中で先に文章を考えてから
説明しようとするもんだから
かえって分かりにくくなってしまって聞き直されることが多かった。
それにひきかえ、観光地のお店や駅の人々は
かなりのブロークンなんだけど、
単語を駆使して堂々と会話をして成り立っていたのだ。
ひと昔前の恥ずかしがり屋で
英語なんて話せないテイの日本人像とは
明らかに違っていて、
70歳くらいのおばちゃんが
「Try it!」とか言って商品を勧めているのを見ると驚いてしまった。
名古屋あたりじゃあんまり見かけない風景だったからだろうか。
高山駅のお兄さんも
有馬温泉の売店のおばちゃんも
京都のただの通行人のおじちゃんも
箱根のバスの運転手さんも
ちゃんと通じる単語を知ってたもんなー。
名古屋も負けてらんないね。
今日、名古屋の観光資源になりうるだろうと思われる
やっとかめ文化祭2016がいよいよ情報公開になりました。
やっとかめ文化祭には外国人のお客様もいらっしゃいます。
名古屋が誇るべき文化がいっぱい詰まっています。
ぜひ名古屋のまちなかへ、遊びに行きましょう!!!

http://yattokame.jp


御場かわせみ【伝統芸能の継承者たち】


昨夜は第二回目の
御場かわせみ@ルマルタン。
今回から、歌舞伎と料理とワインを組み合わせるという暴挙ともいえる企画で笑
内容を考えるのはとっても楽しかったのですが、実践するシェフとソムリエはさぞ大変だったと思います。
演目は、初かつをが登場する髪結新三。そしてカキツバタを意味する八つ橋。
これが料理とワインにどう共鳴したのか、それは参加された方だけのお楽しみですかね→実は写真を撮り忘れました泣。
デザートは2種類で、2番目のデザートは美濃忠の初かつを。かつおを柵切りした時の表面の縞模様が表現されてる名古屋のこの季節限定の銘菓ですね。
これに合わせたお茶は、もうすぐサミットが行われる伊勢の新茶を頑張って淹れました笑。髪結新三には新茶も登場するんです。
とまあ、頭をフル回転しながら楽しんでいただく会なので濃い内容ですが、かなり面白かったのではないかと自己満足しております。
次回は秋ごろに開催したいと思います。どうぞお楽しみに!
#和菓子
#美濃忠
#初かつを
#名古屋の和菓子
#御場かわせみ
#ルマルタンペシュール
#歌舞伎
#kabuki
#かぶき



市川櫻香さんプロデュース「力神」【伝統芸能の継承者たち】


名古屋で「むすめ歌舞伎」を主宰する市川櫻香さんプロデュースによる、伝統芸能と祭りのコラボ舞台「力神」(りきじん)が名古屋で週末に開催された。愛知県半田市の潮干祭の山車が舞台に組み上げられ、それを背にして、日舞・狂言・歌舞伎が祭りというキーワードをもとにしてコラボしながら演じられてゆく。
同じ演目でも、日舞・狂言・歌舞伎ではそれぞれに全く別の芸能として昇華していて、普段はその枠を超えることはなく、もちろん演者さんたちがともに舞台に立つこともほとんどない。櫻香さんは、その枠を超え、一つの舞台を作り上げてしまったのである。そしてそのベースには常に半田市の潮干祭が存在している。なんというカオス!

舞踊「浦島」は全く新しい解釈によるものだった。
浦島太郎がおじいさんにさせられた本当の理由とは、、、。
太郎が竜宮城で過ごしたのは数日だったけど、地上の世界では何十年も経っていて、今更現実の世界に若いままの太郎が戻っても、両親も知り合いも亡くなっているから、悲しい孤独が待っているだけ。
それならばいっそおじいさんになって戻った方が、太郎にとっては幸せなはず。
太郎を愛する乙姫は、泣く泣く太郎と別れるが、せめて太郎が地上で無理なく暮らすために、太郎をおじいさんにして帰すことを考えた。
なんと重くて(苦笑)、深い愛。
自分勝手な乙姫の愛を受けた太郎は・・・それを舞踊として櫻香さんが挑戦された。

狂言は、名古屋の狂言師である佐藤友彦さんと鹿島俊裕さん。
歌舞伎からは、坂東彌十郎さん。
名古屋を潮流とする和泉流の演目「太鼓負」が12年ぶりにコラボという形で演じられた。大柄の坂東彌十郎さんが見栄っ張り妻を、線が細い狂言師の佐藤友彦さんがひ弱な旦那を演じられた。その面白くておかしくて、でもどこにでもありそうな夫婦の小競り合いと、最後は仲良く一緒に帰り行く夫婦の姿に、ほっと心が和んだ人が多かったのではないかと思う。

舞台は、いつもより1メートル下に設置されていて、山車が目の前に迫るように工夫がなされていた。四季桜と青竹がその周りを飾り、半田市のお祭りが芸術劇場のホールにやってきたという高揚感は、お客様にも伝わっていたように思う。

潮干祭りの一団は小学生の子供から70代と思しき長老まで、男連中が一致団結して警護行列。しかもこのお祭りでは、若者が物事を決めて、年配者はそれを見守るのがルールなのだそう。だからこそみんな生き生きとした表情で祭りを引き継いでいってるのね。素晴らしい宝である。

とりとめもなく書き連ねてしまったので、最後に坂東彌十郎さんがおっしゃったことで心に残っている言葉を記しておく。彌十郎さんは猿翁さんから教えてもらった言葉なのだそう。

なによりも基本が大事。
基本の型を知っているからこそできるのが、”かた破り”。
基本を知らずに型のない人がやることは、”かた無し”。


浦島太郎伝説の新しい解釈【伝統芸能の継承者たち】


浦島太郎が白髪のおじいさんになった本当の理由は、乙姫の深い愛情によるものだった!
竜宮城での快楽を味わった後、開けてはいけないと言われた玉手箱を開けたら
おじいさんになってしまう浦島太郎伝説。
浦島太郎がおじいさんにさせられた本当の理由とは、、、。
太郎が竜宮城で過ごしたのは数日だったけど、
地上の世界では何十年も経っていて、今更現実の世界に若いままの太郎が戻っても、両親も知り合いも亡くなっているから、悲しい孤独が待っているだけ。
それならばいっそおじいさんになって戻った方が、太郎にとっては幸せなはず。
太郎を愛する乙姫は、泣く泣く太郎と別れるが、せめて太郎が地上で無理なく暮らすために、太郎をおじいさんにして帰すことを考えた。
この解釈、思わず心がキュンキュンしてきますよね?
身勝手な愛かもしれない、でも深い愛であることには間違いない。
乙姫にとことん愛された太郎を、むすめ歌舞伎の市川櫻香さんが、舞踊・浦島で表現されます。
3月12土曜日、13日曜日、
愛知県芸術劇場小ホールにて。
ご覧になりたい方、
ご一報くださいまし!!!


【香り三昧のソワレ〜香道とワインとお料理と〜】【伝統芸能の継承者たち】


【香り三昧のソワレ〜香道とワインとお料理と〜】
3つの香の調和を楽しむディナーを企画しました。初めてのコラボで悩みに悩んだ会でしたが、さすが常に香りと向き合っているお二方。初めてなのに初めてとは思えない驚くような香りのハーモニーとなって、陶然とする瞬間をつくりだすことが出来ました。志野流香道21世家元継承者である蜂谷若宗匠が組み立てた香りのコースに、ルマルタンペシュールのオーナーソムリエ・那須氏がワインと料理を合わせるという試み。


香りが主役になるので、普段のワインと料理の組み合わせのセオリーは通用しません。魚料理には赤ワインソースで、クローブを中心にした香木・羅国の香りに合わせ、ワインはシャトー・ヌフ・デュ・パープ(赤)。これはソムリエ泣かせだったそうです笑。メインのお肉はアイスランドの子羊、王道ではボルドー・ポイヤック(赤)あたりを持ってくるところですが、なんと、香木・伽羅の甘い香りに合わせて、那須ソムリエの秘蔵品、ラングドックのゲヴェルツトラミネール(白)!
しかも黒いグラスでブラインドで出されました。それだと子羊に合わないのでは?と普通は思いますがミルキーで上品なアイスランドの子羊には合うのだそうです。伽羅・ゲヴェルツトラミネール・子羊の3つの調和には、本当に本当にうっとり。
この世にこんなにも儚い組み合わせがあるのか、と思うほどでした。香りを聞いて、ワインを飲んで、お食事をいただいてしまったら、何も残らないんです。でも記憶にはしっかりと、今でもこの儚い甘さが残っています。


ディナーが終わってから、今回のこの企画のお駄賃として笑、お食事をいただきましたが、伽羅の香りがないまま子羊とゲヴェルツをいただいたら、ゲヴェルツの甘さが際立ちすぎていました。そこに伽羅の上品な甘い香りがあったからこそ、”香り三昧”と言える組み合わせになったのだと。
聞けば、この難しい組み合わせに一晩眠れなかったという那須ソムリエ。プロ中のプロを悩ますほどの難しさがあったから、やがて素晴らしいひとときを迎えることができたのですね。
そして最後に若宗匠からのサプライズはなんと!徳川家康が所持していた「千代の契り」という仮名がついた香木!!!おそらく家康も聞いたであろう香木を時を違えて現代のわたしたちも楽しめるというロマン。香道の面白さとその奥深さに、参加された方全員が鳥肌ものでした。次回は何を企画しようかなぁ〜とつぶやいたら若宗匠が苦笑い。早速、楽しい集いを考えますので、乞うご期待!

#香り三昧のソワレ
#志野流香道
#ルマルタンペシュール


吉右衛門さんの“俊寛”とフェリーニの“道”【伝統芸能の継承者たち】


名古屋では恒例の顔見世が開催中である。吉右衛門さん当たり役である俊寛をいちばんの楽しみに観劇してきたが、正直に言うと、俊寛のような演目は昔は苦手だった。特に子供のころは、歌舞伎といえば綺麗な衣装とキッチュなデザイン、舞台の華やかさを目にすることが楽しみで、ストーリーは二の次だった。大人になってやっと、ストーリーも理解して観るようになったものの、やっぱり俊寛とか法界坊のような“きちゃない”格好のお坊さんという設定は、観ていてもあんまり楽しくなかったのである。


さて、今回の吉右衛門さんによる俊寛。最後、俊寛が一人島に残されて、去り行く船を見送るシーンでは、はからずも落涙してしまった。一緒に行った友人がビックリして私をのぞきこんできたので「大人になったらわかるよね、俊寛の悲哀が」と答えたら、不思議そうな顔をしていた。
なぜ落涙したのか。ストーリーも主人公のキャラクターもなにもかも、まったく違うお話なのに、なぜだかフェリーニの「道」と重なったからである。フェデリコ・フェリーニによる「道」(La Strada)は、古いイタリア映画で、アンソニー・クイン演じる粗野で乱暴な男と、頭が弱いけど心根のやさしい女(フェリーニの奥さんのジュリエッタ・マシーナですよね)のお話。さんざん働かせて利用したあげくに捨てた女が、数年後すでに亡くなっていたことを偶然知った男は、声をあげずに泣く。この最後の男が泣くシーンが私は印象的で、打ちのめされた男の後ろ向きの姿をカメラは追っているだけなのに、その男が声を出さずに泣いているのがわかるのだ。本当に悲しい時、男はこうして泣くのだろう、と私は今でも思っている。


吉右衛門さんの俊寛は、最後は客席に顔を向け遠くを見る姿で幕がひかれるが、間違いなく吉右衛門さんの心は泣いている。絶望的な孤独感と世の中の無情に、涙もなく泣いているのである。先に、俊寛のような物語は大人になってからはじめてわかる舞台だと書いた。結局のところ「俊寛」も「道」も、絶望感であり、人生の絶望感を少しは味わったことのある私のような年齢じゃないと理解できないのかもしれない。「俊寛」の声なき涙は、フェリーニの「道」の男の後ろ姿と重なりあい、わたしはしばらく放心していた。俊寛の後の演目が明るく滑稽な「太刀盗人」であったことが、せめてもの救いだった。


市川右近さんの操り三番叟【伝統芸能の継承者たち】


名古屋で開催された花形歌舞伎も今日が千秋楽。御園座から中日劇場に場所を移して、連日大賑わいをみせてきた。先日、お昼の部を鑑賞。市川右近さんより「ぜひお昼の部を観て欲しい」と伺ったからである。右近さんはすべての演目に出演されており、彼にとってもっとも観て欲しいのが"操り三番叟"の大役だったのだと思う。操り三番叟とは、能楽の翁を題材にした舞踊で、人形に扮した軽やか振りが見どころである。右近さんは舞踊のお家柄に生まれて、歌舞伎の世界に入っていった方なので、DNAに刷り込まれた舞踊の素養がいかんなく発揮される舞台だったのではないだろうか。


そのしなやかな動きと年齢を感じさせない(失礼!)可愛らしさには、目が離せなかった。場内から自然にわきおこる「おおお」という声が、きっと右近さんの耳にも届いていたに違いない。あんまり可愛らしくて本物の人形のようだったので、頭なでなでしたくなりました(笑)。
また後半の"雪之丞変化"は、市川猿之助さんの早変わりが見どころの澤潟屋ゆかりの演目。右近さんは、江戸弁が小気味良い狐軒先生を演じておられた。関西ご出身の右近さんなのに江戸弁が心地よく感じるのは、滑舌の良さだけではないはずだけど、演者さんというのは本当にすごいものなんですね。芸の深さを感じながら、なんとも気分の良い晴れやかな気持ちで会場を後にした。


こちらは別日。
シャンパーニュをご一緒した時のもの。
あ、ちなみに楽屋お見舞に私がお持ちしたのは、コロッケ100個!コロッケ100個って並べるとすごい圧巻の絵でした。写真を撮り忘れたのが痛恨の極みなのだけど笑。右近さんの舞台周りを整えてくださるスタッフの方々にも陣中のお見舞いをしたくて、たくさんお持ちしたのである。右近さんいわく「出演者とスタッフのほとんどがマリコさんコロッケを食べてると思って舞台を観てね」と優しい言葉をいただいた。こういう時のお返しの言葉って、人柄が現れるものだなとつくづく感じながら「あ、目の前の舞台に上がっているあなたも私のコロッケ食べたよね?」と自分勝手な妄想で歌舞伎を楽しんだ。
というわけで、市川右近さん、名古屋での花形歌舞伎、お疲れさまでした!次回どこかの舞台にもぜひお邪魔して、コロッケ100個で楽屋お見舞いさせていただきます(笑)!


やっとかめ文化祭、スタート!【伝統芸能の継承者たち】


今年も、やっとかめ文化祭がスタートした!
やっとかめ文化祭とは、名古屋の伝統芸能や、まちに潜む歴史や文化を掘り起こし、徳川の武家文化が生活に根付く名古屋の魅力を再発見するためのイベントである。先週金曜日10月31日にミッドランドスクエアでオープニングがあり、11月1日から名古屋市内の随所で、野外舞台やまち歩き、寺子屋といったイベントが開催されている。
今年はプランニングから参加し、ディレクターとして携わらせていただいている。昔ながらの古い生活環境で、古い人間に囲まれ、古い感性を良しと教育されて育ったせいか、時を経て輝きを増すものが大好きで、歌舞伎や狂言や日舞を観ることが趣味だった私にとっては、心から楽しみつつできるお仕事である。


まちなかで狂言を繰り広げる「辻狂言」をはじめ、
市内随所でおこなわれる日舞、芝居、お茶会、長唄や箏曲、名古屋甚句、お座敷芸、講談に落語。
さらに名古屋の歴史や文化にまつわるテーマで開催される「まちなか寺子屋」。
普段着のまちを歩くことで未知なる魅力を掘り起こす「歴史まち歩き」。
全部でなんと130ものイベントが11月24日まで毎日どこかで行われている。
人気のものは即日完売が出るほど、チケットの売れ行きも好スタートである。
あ、辻狂言などは無料で観ることができるので、会社帰りなどに気軽に寄ってもらえる。
詳細は↓こちらでご覧ください。
http://yattokame.jp/


ミッドランドスクエアでのオープニングの様子

ミッドランドスクエアでのオープニングの様子

雨にもかかわらず結構な人出でした!

雨にもかかわらず結構な人出でした!

3階から観ていた人もいましたよ

3階から観ていた人もいましたよ

ミッドランドスクエアに笑い声が響き渡り、笑神がなんと!シースルーエレベーターに乗って降りてくる瞬間!笑神が現世に降臨した瞬間です!
これ、まだ肌寒い桜のころに某居酒屋で某氏らと共に作を練った企画だった。笑神を降臨させるにはどの場所がいい?吊るしちゃう?なんて言ってたんだったなぁ・・・。実現した瞬間はやっぱり嬉しかったです。


11月1日に開催【日本舞踊を通して和のマナーを学ぶ】の講座。日本舞踊の動きをヒントに、立居振舞や歩き方、立ち方を学んだ。参加資格は女性のみ、着物を着てくること。総勢29名の女性が和気あいあいと笑顔で講座を受けていらっしゃったのが印象的だった。


11月2日に開催【名古屋生まれの日本酒の美味しさとは!?】の講座。緑区の神の井酒造さんの蔵の中で、蔵元社長、日本酒コンサルタント、日本酒利酒師でもあるシニアソムリエの3名による講座で、名古屋生まれの日本酒を美味しく飲むコツを実践交えて楽しんだ。


11月3日開催【老舗料亭でお座敷遊び体験】の講座。西川流4世家元と名妓連の芸者たちが特別講師となり、お座敷遊びの面白さを解説つきで楽しんだ。寺子屋講座の中でも、こちらは即日完売の人気ぶり。料亭か茂免さんの多大なご協力のもと実現した企画だった。


こんな感じで、明日も明後日も、24日まで毎日開催されている、やっとかめ文化祭。名古屋ってこんなに面白いところだったんだー!ってきっと思っていただけるはず。ぜひあちこちのイベントに参加してみてくださいまし。私もどこかの会場にいて働いております笑。