伝統芸能の継承者たち

市川櫻香さんプロデュース「力神」【伝統芸能の継承者たち】


名古屋で「むすめ歌舞伎」を主宰する市川櫻香さんプロデュースによる、伝統芸能と祭りのコラボ舞台「力神」(りきじん)が名古屋で週末に開催された。愛知県半田市の潮干祭の山車が舞台に組み上げられ、それを背にして、日舞・狂言・歌舞伎が祭りというキーワードをもとにしてコラボしながら演じられてゆく。
同じ演目でも、日舞・狂言・歌舞伎ではそれぞれに全く別の芸能として昇華していて、普段はその枠を超えることはなく、もちろん演者さんたちがともに舞台に立つこともほとんどない。櫻香さんは、その枠を超え、一つの舞台を作り上げてしまったのである。そしてそのベースには常に半田市の潮干祭が存在している。なんというカオス!

舞踊「浦島」は全く新しい解釈によるものだった。
浦島太郎がおじいさんにさせられた本当の理由とは、、、。
太郎が竜宮城で過ごしたのは数日だったけど、地上の世界では何十年も経っていて、今更現実の世界に若いままの太郎が戻っても、両親も知り合いも亡くなっているから、悲しい孤独が待っているだけ。
それならばいっそおじいさんになって戻った方が、太郎にとっては幸せなはず。
太郎を愛する乙姫は、泣く泣く太郎と別れるが、せめて太郎が地上で無理なく暮らすために、太郎をおじいさんにして帰すことを考えた。
なんと重くて(苦笑)、深い愛。
自分勝手な乙姫の愛を受けた太郎は・・・それを舞踊として櫻香さんが挑戦された。

狂言は、名古屋の狂言師である佐藤友彦さんと鹿島俊裕さん。
歌舞伎からは、坂東彌十郎さん。
名古屋を潮流とする和泉流の演目「太鼓負」が12年ぶりにコラボという形で演じられた。大柄の坂東彌十郎さんが見栄っ張り妻を、線が細い狂言師の佐藤友彦さんがひ弱な旦那を演じられた。その面白くておかしくて、でもどこにでもありそうな夫婦の小競り合いと、最後は仲良く一緒に帰り行く夫婦の姿に、ほっと心が和んだ人が多かったのではないかと思う。

舞台は、いつもより1メートル下に設置されていて、山車が目の前に迫るように工夫がなされていた。四季桜と青竹がその周りを飾り、半田市のお祭りが芸術劇場のホールにやってきたという高揚感は、お客様にも伝わっていたように思う。

潮干祭りの一団は小学生の子供から70代と思しき長老まで、男連中が一致団結して警護行列。しかもこのお祭りでは、若者が物事を決めて、年配者はそれを見守るのがルールなのだそう。だからこそみんな生き生きとした表情で祭りを引き継いでいってるのね。素晴らしい宝である。

とりとめもなく書き連ねてしまったので、最後に坂東彌十郎さんがおっしゃったことで心に残っている言葉を記しておく。彌十郎さんは猿翁さんから教えてもらった言葉なのだそう。

なによりも基本が大事。
基本の型を知っているからこそできるのが、”かた破り”。
基本を知らずに型のない人がやることは、”かた無し”。