伝統芸能の継承者たち

第一回 中日落語会【伝統芸能の継承者たち】

第一回中日落語会が5/23(日)に開催されて2週間がたち、コロナ感染者をだすことなく無事に終了できた。やっとここでコラムアップができるのでご報告とともに記録としてここに諸事を記しておくことにしよう。
中日落語会の構想は、実に5年ほど前にさかのぼる。落語評論家の山本益博さんが年に4回開催されている落語会にお邪魔して、そのあまりの面白さと奥深さに落語初心者のわたしは驚いてしまい、同時にこの正統な江戸落語を名古屋でも聴いてみたい、できれば多くの人にも聴いてもらいたい!と思い始めたのがキッカケだった。それから本当にいろんな障壁を乗り越えて、中日新聞社芸能事業部のご努力のおかげでやっと開催にこぎつけたというわけだ。
わたしが、東京の真ん中で江戸の昔から継がれてきた話芸を聴いた時、すぐさま頭に浮かんだのは、落語は生きるヒントを与えてくれるということだった。落語は大笑いするだけではない、人情噺には涙するだけじゃなく、今も昔も人はみな同じことで苦しみ悩み、愛しあったり助けあったりしてきたのだということを、目の前で繰り広げられる物語からあらためて知るのである。そして噺家は、扇子と手拭いを扱いながら、老若男女を演じ分け、観客は、自らの頭の中で物語を想像して映像化し、物語の中へと入っていく。演者と客が心をひとつにしてともに作り上げる芸能なのである。

そして山本益博さんプロデュースのなによりも大きな特徴は、落語会全体のストーリーを組み立てて、そこから演目を噺家さんにあらかじめ依頼するところにある。今回は中日新聞社がはじめて取り組む名古屋での落語会なので、落語をはじめて聴く人も聴き慣れている人も惹きつけられるような番組構成を考えてくださった。
 お菊の皿〜柳家喬太郎
 仲村仲蔵〜春風亭一之輔
 あくび指南〜春風亭一之輔
 おせつ徳三郎〜柳家喬太郎
この番組構成がいかに面白く意味があって、多くの笑いと涙を誘ったかについては、来場くださった方々が理解してくださっていると思う。



会場ではコロナ対策を万全に。消毒・検温・マスクはもちろん、楽屋と客席の行き来を最小限にし、私語自粛案内カードを係員がしめしながら客席を回って歩いた。山本さんをはじめ、師匠連、前座さん、囃子方さんにもソーシャルディスタンスをお願いした。そんな緊張感あふれる中、舞台袖で聴いた喬太郎師匠と一之輔師匠の全身全霊をかけた噺に、わたしは泣き笑い、また笑って泣いた。
落語会は無事に緞帳を下ろし、師匠連をお見送りし、会場を片付けて、最後にプロデューサーである山本益博さん夫妻を名古屋駅までお送りした。新幹線の改札口で手をふってお別れした途端に緊張がほぐれたのか、おなかが急にぎゅるぎゅるいいだした。昔から心配事やら緊張事があるとおなかを壊す癖があるわたし。閉店時間が迫る高島屋に急ぎ足で向かうと、ロープを張って閉店しようとしていたスタッフの方に、真っ青な顔をして「トイレ貸してください」と泣きながら頼み、ほぼ無理やり、ロープをはずしてもらってトイレに直行。わたしの第一回中日落語会は、高島屋のトイレの中で終演を迎えた。


次回は8月29日に開催される。こちらは山本さんプロデュースではないが、花緑師匠や白酒師匠、白鳥師匠など人気噺家がそろうので、これもまた楽しみ!チケットは中日新聞社のあたらしいチケットサービス・BOOWOOで販売中。ご興味ある方は私もすこしチケット預かりがあるので、おっしゃってください。