今日の地球

終わることのない旅のゆくえ MARUYO HOTEL semba【今日の地球】


三重県桑名市。名古屋から車でも電車でも30分ほどの距離である。そうなると大都市名古屋のベッドタウンとなるところだが、実際にベッドタウンかどうかは別にして、おそらく桑名の人はその呼称を好まない。桑名は宿場町、城下町、そして港町として発展したところで、経済と文化が両輪で支えあって育まれた歴史がある。外に出なくとも、仕事も住処も遊びも、桑名でこと足りるのである。
とはいえ、外の水は飲んでみたいと思うもの。桑名市に生まれ育った友人は、大学から東京へ移住して長きを過ごし、その後パリ、京都へと拠点を増やしていったが、2020年6月21日夏至、新月の日に桑名に新たな「場」をオープンさせた。
それがMARUYO HOTEL sembaである。佐藤武司さんの高曽祖父が、桑名市船馬町で材木商である丸与木材を起業し、氏の祖父の兄弟が戦後すぐに良質な木材を贅沢にふんだんに用いた家を建てた。そして2020年。末裔である氏が、その築70年超の民家に手を入れ、ラウンジ・ツインルーム2室・広いリビングダイニングを有する一棟貸しホテルへと蘇らせたのである。
氏の妻であり名古屋市内でgallery NAO MASAKIを主宰する正木なおさんが空間のプロデュース及びアートディレクションを、氏のご母堂であり名古屋市内でフラワーショップAtelier Nouveauを主宰する佐藤志津さんが館内の花を手掛けられている。

先週末、わたしは友人3人とともに、このMARUYO HOTEL sembaで1泊2日の時を過ごした。この2日間で、いろんなことを考えた。旅のありよう、場の感じ方、時の過ごし方…..。コロナ渦によって、人の考え方や価値観が大きく変わろうとしている時代となり、わたしたちの旅はよりパーソナルなものになっていくだろう。パーソナルというのは、個別対応とか個人旅行といった従来のサービスのことではなく、たった1人の心の中に、誰にも邪魔されない形で残されていく記憶と経験がなによりも大切となることを指している。そのためには、旅の舞台であるホテルが、わたしたちと共に変化してくれる(別の言い方をするならば共に成長してくれる)場でなければならない。
MARUYO HOTEL sembaは、先述のgallery NAO MASAKIのなおさんが館内のアートディレクションをしており、一つひとつの作品が存在を消しながら存在するという矛盾を内包している。鑑賞者を疲れさせない上に、共にいることの心地よさを与えてくれるのだ。これらアート作品は観る方のわたしたちが行くたびに感じ方が変わってゆくだろうし、MARUYO HOTEL sembaそのものもその空気を変貌させてゆくはずだ。わたしたちの内省を促し、あらたな旅心を刺激する場として。


オーナーの佐藤武司さんと正木なおさんご夫妻

ロブマイヤーのトラベラーグラスを全員持参し、シャンパーニュで乾杯

マルヨホテルの周りは、日の出や柿安本店、船津屋、歌行灯など名店揃い。ですが、この日の夜は、この空間でどうしてもゆっくりお食事したくて、テイクアウトをお願いしました。以前、オーナーに連れてっていただいた地元民に愛される小さな名店のステーキに惚れこんでしまったため、友人にもあの味を食べさせたくて。結果、大成功。友人たちにも喜んでもらえました。

窓を額縁に見立てて、外の景色の移り変わりを楽しむ

各部屋にシャワーはついていますが、お庭には露天風呂が。独りでゆっくりお湯に入り、考え事をするにはピッタリの場所。お庭やお部屋が一層美しく浮かび上がります。今度は朝酒と朝風呂しようと決めました笑

朝ごはんは、パティシエが作るクロワッサンやブリオッシュ、ヨーグルトにシリアル、しぼりたてオレンジジュースなどで。