今日の地球

らっきょうは待ってくれない【今日の地球】


らっきょうの季節、である。
先週末のこと、私は50キロのらっきょう漬けを期せずしてやることになった。
正確にいうと、らっきょうを漬ける約束は確かにしていたが、まさか50キロもの量になるとはつゆぞ思わなかったのである。
今から2年半前、惜しまれながら閉店したふぐ料理屋があった。そこの女将が、かつての常連客から「焼きふぐについていたらっきょうがどうしても食べたい。ふぐはもう無理なら、せめてらっきょうだけは漬けてほしい」と懇願されたのだそうだ。「だから、らっきょう漬けるの手伝ってよ。うちにはスタッフがいないし他に頼める人がいないから」と女将は私を説得してきたというわけだ。いつもお世話になっている女将のいうことなので断れない。どうせヒマしているのだし、いいよ!と二つ返事で了承したのが5月のはじめのことだった。

「土曜日の9時に、らっきょう・保存瓶・塩・酢・砂糖・唐辛子がマンションに届くからよろしく」と女将から連絡が。女将と私の共通の友人も加わってらっきょうを剥くのできっと午前中で終わるだろうと思って、私は午後から予定を入れていた。それが愚かな予想だとわかったのは、朝9時に八百屋さんの車の荷台で、5箱のらっきょうを見たときだった。1箱何キロですか?と聞くと10キロとのこと。合計50キロである。
それから延々、とにかくらっきょうを剥く。剥く。剥く。私は午後から予定があったので、女将たちを我が家に残して出かけ、17時に戻ったら、疲れ果てた顔で女将が言った。「あとの残りあんた1人でできる?」と。何キロ残っているのか確認するのも恐ろしかったので、とにかく女将たちには帰ってもらい、そこからは私がひたすら剥くことに。

私に課せられたのは20キロのらっきょうだった。24時までやって、あとは翌日にしようと決めてとりかかったのだが、22時を過ぎたあたりから、あろうことか袋の中のらっきょうが、青い芽を伸ばし始めたではありませんか!これでは青臭いらっきょうになってしまう。まずい。明日に作業を延ばすわけにはいかない。せっかく鳥取から第1級の大きならっきょうが届いたのにこれを無駄にはできないので、それから延々と朝の4時までかけて、らっきょうの皮を剥いた。
仕事の締め切りは、待ってもらえる(こともある)けど、らっきょうの成長は待ってくれない。日が昇る前までになんとか剥き終えて塩漬けしないと、らっきょうが朝の光を浴びて光合成を始めるんじゃないかしらと妙な恐怖心にかられながら、ひたすら剥いた。
肩こりと腰痛と睡眠不足というおまけはついたものの、翌日には無事に甘酢に漬けて完成。今、我が家はらっきょうの瓶が18本ほど並んでいる。
●10キロのらっきょうを剥くのに1人でやると約4時間かかること
●一日4時間程度が限界であること
●ちゃんと計画的に香盤表を作らないとエライコッチャ、ということ
●らっきょうは22時すぎるといきなり芽を伸ばすということ
覚え書きにして、女将に進言してみようと思う。
そんなわけで、しばらくはらっきょうは見たくないです。らっきょうのような頭のおじさんにも会いたくないです。らっきょうみたいな頭の方、ごめんね。ちょっと待っててね。