今日の地球

最愛の父が宇宙旅行に【今日の地球】

最愛の父が、宇宙旅行に出掛けました。
いつ還って来られるかわからない旅です。

一昨年の春、父は胆管癌を宣告され、今年の春には肺への転移が見つかりました。若い頃はスポーツ選手で、鍛え上げた体力だけは自信を持っていた父でしたが、春以降、少しずつ体力がなくなり痩せていきました。が、スポーツマンスピリットというか、ど根性というか、とにかく病気に負けてなるものかという気力は最後の最後まで持ち続けていました。生きることへの執着と気力には、本当に驚かされ、生き様と死に様を同時に学ばされたように思います。
晩年は家庭菜園に目覚め、緻密な計画を立てて、晴耕雨読を実践していました。今、私は通夜の会場で、父の家庭菜園の計画表と畑の設計図をみて、愕然としているところです。そこには、天気、その日の作業内容がびっしりと細かく描かれ、前年の計画表と比較をしながら、常に工夫を重ねていることが読み取れます。またその計画表は日記の要素も兼ね備えており、「万理子帰宅」「家族で山代温泉へ旅行」「万理子東京へ」といった家族の行動まで記されていました。(マリコがペンネームで、万理子は本名です) ちなみに癌を宣告された日付を見てみると、「癌宣告される」と記されており、その一文を書くことはさぞ辛かったであろうと思うと、なんともやるせなく悲しい気持ちになっています。

ここには、私が子供の頃の父との交流で、心に残っていることを書き留めておこうと思います。それは日常生活の中にこっそりと父が仕掛けてくれた独自の教育のことです。私がまだ小さな子供だった頃、タバコを嗜む父は帰宅して食事をすませると、決まって居間にどっしりと座り、私の方を見て「タバコとマッチと灰皿と」と言いました。私はそれを言いつけられるのが好きで仕方がなく、その3点セットを得意げに父に持っていき、頭を撫でてもらっていました。
実はここには、父なりの私への教育が施されていたのです。つまり、タバコを吸う人にはマッチと灰皿が必ず必要で、タバコと言われたらマッチと灰皿も一緒に用意をしなさい。それくらい気の利く人間になりなさい、という意味でした。ところが、「タバコとマッチと灰皿と」この言葉に込められた父の思いに、気がついたのは30歳を過ぎた頃のことでした。なんという間抜けな娘でしょうか。恥ずかしくて父には「気がついてるよ」と言わないままに、父は逝ってしまいました。今、通夜の間に、父にそっと耳打ちしようと思っています。でもきっとこれからも「あ、あの時の父の言葉にはこんな意味が込められていたんだ!」と気がつくことがあるでしょう。その度に私は、自分の間抜けさにがっかりしながらも、ずっと父とともに生きていくことになるのだと思います。

パパ、間抜けな娘に育ってしまったけど、
私はパパの娘に生まれたことを、心から誇りに思っています。
長い間、ありがとうございました。