今日の地球

桜のマナー 花見から着物まで【今日の地球】


関東から南の地域では、お花見も今夜が終焉のころ。四月に入っても肌寒い日が続いたので、今年のお花見はいかに?と心配される声が多かったが、人間の想像力をはるかに超えたところで、今年も桜はちゃんと花を咲かせ、日本人の心をぎゅっと鷲掴みにして散りゆこうとしている。見事なものです、ホントに。かく言う私も先週は土日の両日にお花見を楽しみ、我が家のベランダに生けた桜を見ながら一人酒で乾杯したり、実家の窓から見える桜を額縁庭園のごとく楽しんだり。「お花見寒いから苦手〜」と天の邪鬼なことを言いつつもちゃっかり堪能させてもらった。


さて、コラムのテーマは「桜のマナー」。歳を重ねると読み書きしているうちにいろいろな知識がついたり、諸先輩が教えてくださったりするので、妙に知恵がついてしまった。行く先々で「あら、あの若い子、あんなことしてるわ」とか「まったくマナーを知らないんだから〜」と、他人の行動が気になって仕方がなかった。これって、いわゆる中年女性の特徴そのものですよね。すみませぬ。


まずはお花見の方のマナー。桜の木の真下にブルーシートを敷いてお弁当やお酒をいただくこと→もうこの時点でアウト、なのだそうだ。京都の桜守・佐野藤右衛門さんによると、ブルーシートで覆うことで桜の根っこの呼吸を一時的に止めてしまうのだとか。ブルーシートに長く覆われると桜は呼吸困難に陥り、元気をなくしてしまう。では地面にお弁当を広げる時はどうしたらいいかというと、昔から用いられているゴザなど通気性の良い物を使うべきなのだそう。さらに、女性のハイヒールも厳禁。地面には桜の若芽が顔を出しているはず。それをハイヒールのとがった先でへし折ってしまうからだ。先週のお花見では、ブルーシートを広げて大騒ぎしている団体さんや、カレシと腕を組んでうっとりしているハイヒール姿の女性を多く見掛けた。いちいち注意してたら、ただの迷惑おばさんになりかねないのでぐっと我慢し、自分のコラムでこうして吐露して発散することにした。


お着物の方のマナーは人によっておっしゃることが違うのだけど、私が信頼している着物屋の女将から教えてもらったマナーを記しておく。桜の花びら模様は一年中着ても問題はないが、桜模様の場合は、3月初旬から桜が咲く前まで着ることが許されているというマナーだ。つまり、花びらだけなら模様として認識されるけど、花模様は着る時期を限定してしまうというわけ。自然の美しさにはどんなに高価な着物も作家物も叶わないので、本物の桜が咲いている時は[偽物の桜]は遠慮するべきだ、という考え方らしい。「最近はそういうマナーを知らずに、桜の時期に桜模様を着ている人が多いんだけどね〜」と女将はちょっと残念そうに教えてくれた。


この桜模様のマナーは、自然への敬意を表す日本人ならではのセンスだなぁと感心しながら、同時に、他の花ではここまで細かなことをとやかく言われないのではないかとも思う。一年でたった一週間ほどしか咲かない桜。この花への深い憧憬が、多くの芸術だけでなく、マナーをも生み出したのだろう。と、ここまでコラムを書いていて、お恥ずかしいことにハッと気づいたことがある。バッグにいつも持ち歩く懐紙の模様が確か桜のままだったのだ。こりゃいけない!桜マナーにのっとって、明日、早速カキツバタ模様の懐紙に入れ替えておかなくっちゃ。どこかの中年女性に咎められないようにね・・・。