今日の地球

哀しみの側【今日の地球】


"On the street at midnight,1999"
先週末のART NAGOYA 2011では「ミイラ取りがミイラになった」。つまり、私が実行委員という役目をころっと忘れて、ついつい現代アートに夢中になってしまい、写真家・ハービー山口さんの作品を購入してしまったのだ。それが↑の写真。リュクサンブールの街角で撮られたものである。ひと目惚れだった。


帰宅してから、改めてこの写真と向かい合い、私はなぜこの写真に惹かれたのだろうと考えてみた。現代アートという分野の写真には明るくないので、写真家の名前で購入を決めたわけではない。欧州の街角を撮影している写真家なんていくらでもいる。けれど、この作品がよかったのだ。
いかにも欧州らしい建物の雰囲気や雨で濡れた路面の感じ、必要最低限あるだけの光の量、そして接吻を交わす二人と、絵の向こうへと歩き去って行く二人。さらになんといっても私の大好きな6×6というスクエアサイズ。
これらが惹かれた要因である。・・・けれど、なんとなくこれだけではない、と心のどこかで言っている。もっと根本的ななにか。自分でもわからなかったその答えを、私は古い友人のfacebookの書き込みに見い出すことができた。


以下、古い友人である北澤由美子さんの書き込みから(全文ママ)
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マリコさんのお誘いで、生まれて初めて現代美術のイベント(ART NAGOYA 2011)に参加しました。いろんな作品を拝見して、作者さんご自身やギャラリーの方々とお話しもして、とても刺激を受けました。あの場では全然言葉にできなかったものが、一日たってみて、すこしづつ言葉にできたので、忘れないうちに書いておきます。
一番印象深かったのが、大和由佳さんの「喪失を運ぶ舟」でした。お部屋にはいったとき、にこにこと説明をしてくださるかたがいて、そしたらそれが大和さんご自身でした。作品の前で「これ すごいー おもしろいーー 卵焼きがフライパンにくっついちゃったときのあのかんじを思いましたー」とかって、小学生みたいな感想を口走ってた自分が、今思えば相当恥ずかしい(>
うちにかえってきて、Webで大和さんのサイトを拝見して、改めて「喪失を運ぶ舟」をながめながら、あのとき作品の前で感じた自分の気持ちにようやく気づきました。
一晩中、蚊取り線香を玄関で焚いていると、朝になってその燃えかすが、ごくたまにではありますが、ほぼ完璧な同心円状で残ることがあります。うわー!と思って、入れものを持ち上げとたんにその形は音も立てずに崩れてしまうのだけど。そんなキレイな形ではなくても、なんでこんなふうに?と思うような形に残ることもあって、アレは本当に不思議。それなのに、朝の支度をしているうちに、さっき見た美しい形のことを、すぐに忘れてしまいます。ユニークな形についてもそう。わざわざデジカメで撮らない限り、覚えてなんていないのです。
そのことを、「喪失を運ぶ舟」の前で、私は思い出していたのでした。
そして、それと同時に、あの蚊取り線香の燃えかすのはかない様子は、一昨年の夏に亡くなった祖母の骨と同じだということにも気づいたのでした。火葬場で焼かれて引き出された骨は、まさに蚊取り線香の燃えかすのようでした。
シャガールの絵を見て、あるいはブラームスのシンフォニーを聴いて、そうすることによって自分のなかから引き出されてくるものがあります。現代美術も、まったくそれと一緒なんだなあー。現代美術ってどうやって「鑑賞」したらいいんだろう、とちょっと居心地が悪いというか困った気持ちになっていたのだけれど、これでほんのすこしだけれど、「わかった」気がしました。
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私も彼女と同じように、ART NAGOYAで多くのアート作品と出逢い、その中で↑の写真を手元に置く決心をした。由美子さんが言うように、私はこの写真を見ることによって、自分の中からある感情がわき起こっていたのである。それは"哀しみ"であった。一瞬の時を愛おしむ心のありよう、いつかどこかで経験した別れと出逢いのことなどを、この写真が語っているのである。


私が心を揺さぶられるものには、いつも"哀しみ"がそこにあるのだと思う。それは涙を流すような圧倒的な哀しみという意味だけでなく、場合によって"はかないこと"で、時には"せつないこと"だったり"なつかしいこと"だったりする。もっと観念的に表現するなら、お昼間の太陽がさんさんと当たる側ではなく、漆黒の夜に月が照らす側と言えばいいだろうか。蕾から開いたばかりの生命力あふれる朝の花よりも、夕暮れ時のゆるやかな風に揺れる一輪がいい。それが、心を揺さぶられる源なのだろう。アートも人間も生き方も、"哀しみの側"から眺め味わっていこうと思う。