今日の地球

山椒婦人のお見合い話【今日の地球】


きれ〜いな緑色。線香花火みたい。あるいは小さなカボスみたい。これ、何だかお解りですか?


答えはこちら、実山椒でございます。
一ヶ月ほど前から店頭に並びはじめた実山椒。
強烈な香りが特徴の香辛料で、この実の部分はじゃこに入っているし、粉末はうなぎにふりかける。
葉っぱの部分はお魚の臭み消しや煮物の香りづけになる。


実と茎を手でちぎって分ける作業が、先が細かいこともあってなかなか大変。取材の資料として手渡されたDVDを観ながら手元は山椒の実と茎を分ける作業に没頭すること、およそ2時間。
夕暮れ時にはじめたものの、


ご覧の通り、終わったら夜になってしまっていた。
左が実、右が茎。
茎のとげとげした感じが、バラの茎に似ていなくもない。


ところで、この実山椒をお店でカゴに入れ、レジを終えてお買い物袋に詰めている最中、とある上品なご婦人から声をかけられた。「すみません、この実山椒って何に使われるんですか?」と。私が食料品を買っている丸栄百貨店は、お野菜や魚の質が良い割にお値打ちなので、周辺の飲食店の方もよく利用していらっしゃる。そのご婦人は、一人暮らしとは思えない量を買い込んでいる私のカゴを見て、飲食店の人間だと思ったのかもしれない。以下、そのご婦人と私の会話。
ー実を取って、佃煮みたいにして煮るんです。
ーどうやって作るんですか?
ーアク取りのため、一旦煮立たせて、そのお湯を捨てて、お醤油とお酒とみりんで煮付けます。冷蔵庫で保存すれば3年以上持ちますよ。
ーそれ、どうやって食べるんですか?
ーご飯の上にのっけてもいいですし、家では麻婆豆腐に使います。お肉と煮ても美味しいですよ。
ーまぁ、なんて賢い奥様ですこと!
(ここで、そのまま聞き流してスルーすればいいのに)
ーあ、いえ、奥様なんかじゃなくて、独身なんです。
ーあら、じゃあお店でもやっていらっしゃるのかしら?
ーあ、いえ、ただの趣味で・・・。
ーまぁ、そんなお料理ができるのに独身なんてもったいないわ〜。失礼ですけど、おいくつ?
ーえ、あ、40代、ですけど・・・。
ーまぁ、そんなにいってらっしゃるの?(爆!)見えないわね〜。ご結婚されるおつもりはあるの?きっと理想が高くていらっしゃるのね。でも、あなたのような女性には是非素敵なご結婚をなさって欲しいわ。もしよろしかったら紳士をご紹介したいけど、連絡先を教えてくださる?良いお話になると思うわよ〜。お名刺か何かお持ちですか?
ーあ、すみません。名刺を持ち合わせていないものですから、またどこかでお目にかかった時にでも・・・すみません・・・(と言いつつさりげなくフェイドアウト)

急激な展開に戸惑った私は、とっさの嘘をついてしまった。だって、はじめて会った見知らぬ人にいきなり連絡先を教えるなんて、よっぽどじゃなきゃしませんよね?


でも、よく思い返してみると、私は時々こういうことに遭遇しているのだ。この出来事から遡ること半月前、スタイリストの原結美さんととある料亭で打ち合わせを兼ねたランチを楽しんでいた時、隣の席のこれまた60代と思われるご婦人から声をかけられたのだ。どこから来たのか?このお店ははじめてか?どんな仕事をしているのか?結婚しているのか?などなど。そして最後にその人も山椒婦人と同じことを私に言ったのだ。「どなたかご紹介してさしあげたいわ」と。


よっぽど男性に縁がなさそうな哀れなオンナに見えるのか?それともただ単に、世の中には紹介したい症候群のご婦人が多いのか?いつも複雑な思いにかられながら、そういうお申し出をかわすことが上手くなってしまった。


そんなわけで、実山椒をくつくつと煮ながら、今迄出逢った山椒婦人系のおば樣方のことを思い返してみた。数々の親切なお申し出の中には、白馬に乗った王子様がいたかもしれないし、ジャガーに乗った紳士がいたかもしれない。そう思うと、勿体ないことしたのかもな〜。


というわけで、いろんな思いと共に煮上がった今年の実山椒佃煮。
煮沸消毒したガラス瓶に3つ出来ました。
我が家の麻婆豆腐は、この山椒をみじん切りにしてイッパイ入れる。
豆豉もいれて真っ黒な仕上がりになり、
陳さん風の山椒辛い本格麻婆味が楽しめるのだ。皆さん、食べに来てね。