今日の地球

海のオンナ、海のオトコ【今日の地球】


まだ極寒と言ってもいいほどの気温に震える2月初旬、海辺の風景を取材するために、賢島〜志摩方面に出掛けた。レインブーツを履いて海に入り海女さんと一緒に船に乗ると、このコラムでも紹介したあの頃のことである。ディレクターS氏とカメラマンM氏と共に賢島のホテルに泊まり、夜明け前の5時にロビーに集合して、すぐに浜辺に降りたら、この風景と出逢った。夜と朝の間、これから一日が始まろうとする光の眩しさ、絵葉書のような美しさに、息をのんで立ちつくしてしまった。


太陽が昇る光景を左手に見ていて、ふと右を見ると、空にはこんなきれいなお月様が浮かんでいるではありませんか!映像位置的にもまさに夜と朝の間に立っている私。カメラマンのM氏は、刻々と変わりゆく夜明けの色彩を追って無言でシャッターをきり続けている。一歩でも足を踏み出せば、あっという間に夜が明けてしまいそうな気がして、寒さに震えながらじっと空気が流れて行くのを感じていた。


日が昇った後は、漁業組合の市場の取材、そして楽しみにしていた海女さん取材である。海女小屋に入っていくなり浴びせられた言葉は「姉ちゃん、今日これから一緒に海に潜るん?」とまどう私に隣のおばちゃんが大笑い。平均年齢70歳を軽く超えている海女さんたちは、とにかく明るくて、めちゃめちゃ元気だ。まるで少女のようにけらけらと笑う。屈託のない笑顔は、人生の苦労と表裏一体なんだろうなぁと思いながら、私も一緒におかきを食べ、男性の悪口を言い合い、共にけらけらと笑った。腹筋をたくさん使って笑ったからか、とっても気持ち良かった。海女さんたちがお着替えされた時にちらりと見えた、真っ白でつややかな肌が忘れられない。

※海辺の風景を取材した文章は、とあるクライアント様の広報誌にてお読みいただけます。いつもながら写真がとても素晴らしいのでぜひご覧ください。ご希望の方は下記アドレスにメール送信してください。
Sassi-ko-ryu.Koe@chuden.co.jp
1.郵便番号・住所、2.氏名(ふりがなを添えて)、3.なぜ欲しいと思ったか、を記入の上、お申込くださいませ。



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2月の海辺でのことを何故今頃コラムにするのかというと・・・海のオンナの強さと海のオトコの清々しさを、この数日何度も想ったからである。

志摩に住む友人のご主人・海のオトコが天に召された。
3月30日午前10時43分、大潮だったそうだ。

友人のSちゃんは、癌を患ったご主人と共に過ごす闘病生活をブログに記しながら、ご主人Rちゃんに対する深い愛と献身的なまでの看病に精一杯のことをしていた。その愛に満ちたブログからは、愛娘とご主人との大切な時間をていねいに過ごしていることがよくわかった。愛娘には、人生の可笑しみや悲しみ、そして愛を教え、時に諭し、親と子というよりも同じ人間同士、共に成長を楽しんでいるかのように見えた。
ご主人のRちゃんは志摩で生まれ育ち、ヨットが大好きで船を造る仕事をしていて、海のオトコそのものだった。結婚前から話だけはたくさん聞いていたのだが、今度は会わせてねとは口約束ばかりで、結局、私はご主人には会えていない。


ここのところ、Sちゃんのブログがかなり逼迫した内容だったので、数日ブログ更新がないとドキドキしてしまう。昨日、4月1日の未明の更新で、ご主人が亡くなったことを書いていた。これはエイプリルフールだろうと思った。きっとジョークなんだ、と。ブログが新しく更新されるまでは信じないでおこう、と。でも、やはりそれはエイプリルフールなんかじゃなかった。


4月1日の夜、私は会えなかったご主人Rちゃんと乾杯したくて、お酒を飲むために出掛けることにした。ご近所の割烹「ふじ原」で、はじめて"一人ふじ原"を体験。心の中で、友人のSちゃんと、そのご主人Rちゃんと一緒に日本酒を乾杯。Sちゃんがブログで書いていたように「今夜はたくさん飲もう!」とRちゃんに語りかけ、ひと口飲んで天を仰いだら、お酒が喉をゆっくりと流れていった。あ、美味しい。生きてるってこういうことなんだなと思った。
Sちゃん、今度Rちゃんの話しながら一緒にお酒を飲みましょう。何度かメールを送ったのだけど、なぜだか戻ってきてしまって。不義理を続けていてごめんなさい。3月30日はとてもきれいな満月でしたね。今頃、Rちゃんは、私が見た志摩のきれいな海の上でお星様になっているのでしょうね。お星様になった海のオトコが、海のオンナであるSちゃんたちをずっと見守ってくださると思います。