今日の地球

瀬戸内の美味に想う【今日の地球】

松山を旅してきた。愛媛はおろか、実は四国そのものに舞い降りるのが生まれてはじめてのこと。昨年末NHKで放映された「坂の上の雲」で松山を舞台にしたお話と松山の美しい風景(実際は全国あちこちでロケされているのだけど)にすっかり心奪われてしまい、久々に旅心に誘われたというわけだ。松山や道後温泉、坂の上の雲ロケ場所巡りツアーのことなどは後日アップするとして、松山"旅の手帖"第一弾は、瀬戸内の美味しいお魚について書こうと思う。


松山では、瀬戸内で獲れる鯛の炊き込みご飯やお茶漬けが名物となっている。私がいただいたのは、鯛のお刺身を卵とゴマを使ったタレに浸してご飯にかけて食べるもの。ただ、残念ながら観光客相手のお店だったのか、独特のもったりした脂がのっている養殖鯛だった。結構良いお値段だったので、少々がっくり。


お昼をいただいてからお城だの温泉だのでかなりの距離を歩いたので、おなかがすきすきの状態で、気を取り直してお夕食でございます。
せっかく松山に行くのだから、瀬戸内の美味しい小魚を食べさせてくれるお店、名古屋でいうところの「勝手屋」さんのような居酒屋に行きたいなと思い、いろいろリサーチしたが、残念ながら現地に知り合いがいない街では、ネットやガイドブックしか頼りになるものがない。以前博多出身サイトーさんに教えてもらった博多のお寿司屋さんがびっくりするほどお値打ちで、地魚を徹底的に美味しく食べさせてくれたので、その経験から地元の物を大切にする料理人のお店に行きたかったのだ。


結局、ネットで探して行き着いたのは、佐田岬半島の三崎漁業組合が経営する居酒屋さんだった。松山市内の住宅街のような場所にあり、地元の人が普段食べに行っている感じの、ごくごく普通の居酒屋さん。
そこでいただいたのが、このお刺身でございます。カンパチ、タチウオ、鯛、そして岬(はな)アジに岬サバ!岬アジとは、大分県佐賀関の関アジと漁場を共にする佐田岬半島の三崎漁港から出荷されるアジのことを言う。潮がぶつかりあう浅瀬の岩礁に棲み着いていて、大海原を大群で回遊するアジと違い、身が締まって旨味が強い。実際にいただいていみると、もうそんな面倒な説明などどうでもよくなるほど、本当に新鮮でこりこりしてふんわりと香る美味しいお魚だった。名古屋や東京のお寿司屋さんだったら、もう少し薄く切るんじゃないかな?と思うほど、どのお魚も分厚くて大きかったし、いわゆる"洗練"という言葉からはほど遠いお料理だったけど、これこそ獲れたばかりのお魚を地元で消費する美味しさに満ちていて、大満足の一夜を過ごした。お刺身の手前にある柑橘は、なななんとカボス!一瞬、色からして伊予柑???と思ったけど、絞ってみるとやわらかな酸味が特徴のこれまた美味しいカボスだった。さすが四国!
さらに、お昼の雪辱をはらすため、最後の〆ご飯は、鯛ご飯をオーダーした。すると、天然と思われる身の透き通った鯛のお刺身が、お昼と同じく卵とゴマのタレにかかって出てきた。最初に鯛のっけご飯で、次に上からお茶をかけてお茶漬けにしていただいた。もちろん、ごくごく上品なとっても美味しい鯛ご飯であった。さすが漁業組合直経営!


さてさて最後のお夕食。松山空港で瀬戸内最後の食べおさめとばかりに、導かれるようにしてお寿司屋さんの暖簾をくぐった。瀬戸内産とおぼしきネタにうっとりしながら、まずはビールとお刺身を注文する。すると、出てきたのは、新鮮なぷりぷりのカンパチ、岬アジ、岬サバ・・・とここまでは良かった。この後、びっくり仰天、まぐろの赤身が供されたのである。すっかり気分は冷めながらも仕方なく一口いただくと、予想通り冷凍物が解凍されて、さらにドリップが出きった後の旨味の抜けたパサパサのまぐろだった。地元のお魚で、とオーダーしなかった私が悪いのか。
目の前で獲れた新鮮な瀬戸内の小魚にこんなにも恵まれているのに、なぜ、まぐろ???お寿司屋といえばまぐろが出てくるというのがもしかして日本の常識になっている?そしてそのおかしな常識は、どこかの大手回転寿司会社が作ったのか、それとも日本人の頭の中がそこまでおかしくなってしまっているのか?日本全国、どこのお寿司屋さんに行ってもまぐろがあるなんておかしいじゃないですか。クロマグロがワシントン条約で禁輸になるかもと騒いでいるけど、もしも日本人の味覚とお魚への意識がどうかなってしまっていて、クロマグロを世界中で乱獲して冷凍しないとお寿司屋さんが成り立たないのだとしたら、ワシントン条約による禁輸は決行されるべきだと思う。近海で獲れたお魚を地元で美味しく消費する、そんなごく当たり前の“楽しさ”を知る自由がないなんて!冷凍技術なんてくそくらえだ!納得できない気分のままに、すっかり下品になった私は、夕暮れ時の真っ赤な空をゆく機上の人となった。