今日の地球

啓蟄を知らせる【今日の地球】

三寒四温の言葉どおり、少しずつ春が近づいてきている。三寒四温、いい言葉だなぁ〜。
今朝、昔から使われている言葉とか、昔の人の鑑賞眼はすごいものだなぁとつくづく実感する出来事があった。
今日3月6日は「啓蟄」である。啓蟄(けいちつ)とは二十四節気のひとつで、冬ごもりしていた虫が外に這い出てくる頃のことを言う。「啓」には「ひらく、開放する、(夜が)明ける」などの意味が、「蟄」には「冬ごもりのために虫が土の下に隠れる、とじこもる」という意味があるそう。要するに、春への扉を開けて虫が外に出てくるということで、人間だけでなく虫にとっても居心地の良い温かさを感じる季節、というわけだ。


我が家のリビングは南向きで冬でも結構温かい。お天気が良ければ、暖房を入れなくてもぽかぽかしていて、気持ち良くお昼寝できちゃうほどだ。そして、日当りの良い窓際には幾つか観葉植物を置いているので、そこには小さな生き物が生存する「鉢」がある。そろそろ春かな・・・と人間が感じる季節になると、土の中に眠っていた小さな虫がのっそりと出てくるのである。そして今日、まさにその虫が現れたのだ!「お、今年も出たね」と虫に声を掛けてから気がついた。今日が啓蟄だということに。


実はこの虫、海外からやってきたヤツなのだ。およそ4年前、まだ学生だった甥っこノゾムがインドを旅したお土産に「クミンシード」を持って来てくれた。カレーに入れる香辛料で、小さなビニール袋に詰まった代物だった。もらってから1週間ほどキッチンに置いておき、ある日ふとそのクミンを見ると、もぞもぞと虫が動いているではないか!どうやらインドからクミンにくっついて虫も一緒にやって来ちゃったみたいなのだ。一瞬うぎゃっっっ!と声をあげながら、そのビニール袋ごとゴミ袋に捨てて封印し、無事処理したつもりでいた。
・・・そして一年後・・・。
当然ながら、その虫のことなどすっかり忘れていた。ところが、一年後のちょうど「啓蟄」の頃、その虫がリビングをのっそりと、でも堂々と横断しているではありませんか。どうやらヤツらは観葉植物の鉢に安住の地を見いだしたらしく、そこで越冬して2世代目が顔を出したのだ。びっくりした反面、生命力のすごさを感じてしまい、虫を退治する気にはなれなかった。


のっそり虫くんは、お米粒の半分ほどの大きさで、人間の不都合になることは何もしない。ただリビングの南側を時々のっそりと横断するくらいである。さらにヤツらの生存日数は大体数日で、のっそり歩いているなと思ったら何日か後には死骸となる。何を食べて生きているのかまったくわからない。もしかすると何も食べることないままに一生を終えるのかもしれない。この部屋で何代にも渡って生き続けている割には繁殖力も大したことがなく、まぁ要するに虫嫌いの私でもほとんど気にならない程度の存在なのである。


それにしても、インドから海を渡ってやってきたというのに、日本の二十四節気の啓蟄を狙って外に這い出てくるとは、のっそり虫もなかなか礼儀正しく粋なヤツである。毎年、のっそり君が、仕事と恋に疲れた四十女に春の訪れを知らせてくれるのだ。どうもありがとう。