今日のエコ

陶器の金継ぎ【今日のエコ】

端が欠けたり、ヒビが入ったり、あるいはまっぷたつに割れてしまったり。
そうした陶器類を「直す」技術があることをご存知だろうか。
いわゆる「金継ぎ」である。
食器であれば使用に支障がないように直すことが出来る。

今から4〜5年前に、漆作家のところに、この金継ぎを習いに通ったことがある。
手先の仕事がもともと好きなのと、陶器は見るのも使うのも買うのも好きなので、
あっという間に金継ぎの世界に入り込んでしまった。
以来、自分の家の物はもちろん、友人知人の大切な器が欠けてしまった時に、趣味を発揮して直してさしあげている。


この器は知人の物。
上部に小さな欠けがあり、そこに漆のパテをつめて乾燥させ、形を調えてまた漆を塗り、形が整うまでその作業を繰り返し、最後に絵漆を塗って、上から金粉をかけ、さらに絵漆が乾くまで保存して、金をたたいて安定させて、やっと完成する。

実に地味で地道な作業で、漆が乾くのに湿気と時間を要するので、場合によっては完成まで二ヶ月近くかかることもあり、性格的に向き不向きはあると思うけれど、器として蘇った瞬間は、もう筆舌に尽くしがたい喜びがあるのだ。


アップにすると、こんな感じ。
欠けてはいたが、再び食器として使えるので、道具として二級品の扱いにはならないそうだ。(特にお茶の世界などで)
それどころか場合によっては「景色がついた」として、価値が上がることもあるそうなので、日本の陶器というのは面白いものである。


ところが、西洋ではこうした金継ぎの技術は用いられない。
もちろん漆の歴史がないという背景もあるけれど、それ以前に欠けた器はその時点で価値がなくなってしまうのだそうだ。

観賞用の陶磁器については、化学樹脂を用い、まるで壊れていないかのように修復する技術はある。
直したことが一目瞭然の金継ぎとは正反対で、西洋の考え方は「元通りにすること」なのだ。
完全なる物を愛でるのが西洋で、
不完全な物を愛でるのが日本の美意識なのだろうか。
ちなみに現在、日本で国宝指定されている陶磁器の中には、金継ぎされた(銀や漆のみで継がれている物も含めると)物が何点かある。
直された器が国宝指定を受けるなんて、西洋の修復師が聞いたらビックリ仰天なんでしょうな。



この金継ぎ、作業している最中は面白くて仕方ないのだけれど、
漆のパテをつめている時に、必ず頭によぎることがある。

顔のシワにこうしてパテを埋めることができたらなぁ・・・と。

金継ぎされた器は景色がついていいのです!と高尚ぶった言葉を吐いても、
所詮、思考回路はオンナなのだ。悲しい性、である。

こればっかりは、西洋も東洋も同じ価値観だと思うのであります・・・。