暮らしの発見

秋の夜空と虫の声【暮らしの発見】

久々に母と二人でお出掛けして、そのまま実家に帰った昨日。一人暮らししている私は、生まれ育った家に戻ると、自分を無意識にリセットしているような気分になる。
段差だらけで生活しにくい古い家屋ではあるが、木造建築独特の匂いがどこかから漂い、そこかしこに子供の頃の記憶が刻まれた家。何をするということなく、その空間でぼぉ〜っとしていると、それだけで満ち足りた気持ちになる。壁や襖や障子が息をしているような気がするのだ。普段の私は、コンクリートに囲まれて虚構の世界に生きているのではないか?と思うほど。


夜、お布団に入って眠ろうとすると、網戸越しに庭から聞こえてきたのが、虫たちの競演だった。虫の名前はわからないけれど、高音から低音まで、それは美しいハーモニーを奏でている。風が吹けば一瞬演奏は中断され、風が落ち着くと再び始まった。眠るのがもったいなくて、縁側に出てしばし演奏会の聴衆となった。夜空を見上げれば、十六夜。秋らしく透明感のあるお月様が、こっちを見ていた。こんな夜は、盃のお酒に月を映して呑みたくなる。今年もこの季節がやってきたな、と思った。