暮らしの発見

広告の原点【暮らしの発見】

まだ世の中に広告というものがなかった時代。商品はどのように広報され、販売されていたのか。かなり偏った一説によると、最も古い形の広告は、うなぎ屋さんにあると言う。うなぎ屋さんの店先では蒲焼きが焼かれ、タレが焦げる香ばしさとうなぎの匂いであたりはいっぱいになる。この匂いこそ、最大の販促であり、五感に訴えたクロージングである、と一説は唱えているのである。最も古いと言及してしまうと問題はあるが、確かに広告の原点をついているエピソードではある。なんといっても「あぁ、欲しい、買いたい」と思わせるのが広告なのだから、特別な売り文句なしで、直接臭覚に訴えかけるうなぎ屋さんの手法は広告の原点かもしれない。


というわけで、広告文筆業を生業としている私が、
初夏の上田にてミイラ取りのミイラになってしまったのがこちら。
桑の実のジャム、とても珍しい代物で、桑畑のある山間部に行かないと販売されていないのだ。


絹織物の生産地には必ずお蚕さんの餌である桑が育てられていたので、よほどの都心部でない限り桑畑はあちこちにあったらしい。ちょっと昔の人に聞くと「わたしが子供の頃はね〜、桑畑で実をかじっておやつにしたんだよ」と話してくれる。知人から桑の実ジャムが美味しいと聞いていたので、軽井沢ではじめて発見した時は、即、業者買いし、お店の人を驚かせた。以来、長野方面に行くと必ず業者買いすることにしているこの桑の実ジャム。今年7月に信州・上田市に、上田紬の職人さんを取材で訪ねた折に、上田の街にあるみすず飴の店先で、桑の実ジャムの広告を見つけたのである。


それがこちら。
お店の方の直筆広告で、きれいな絵もついていて、
キャッチコピーは一言!「ご用意できました」
待ち望んだ物がやっと用意できた、という感じが出てませんか!?


すぐ隣には、こんなリードコピーがついている。
臨場感あふれる、やさしい毛筆。
そこに綴られているのは昔の風景への憧憬。
これにぐぐっときてしまい「桑の実ジャムください、二つ!」


毎朝のヨーグルトにスプーン一杯の桑の実ジャムを入れて食べ続けて5ヶ月。大きな瓶に詰まったジャムも、今日で最後となってしまった。美味しかったなぁ〜桑の実ジャム。ちなみに今年の桑の実は出来が良くなかったため、みすず飴では個人の大量買いは遠慮しますと書かれていた。その貴重なジャムを毎日いただけたことに感謝して、私が創りだす言の葉も人様をぐぐっとさせることが出来ますように、カラになったジャム瓶に向かって手を合わせた。