伝統工芸の職人たち

唐獅子牡丹【伝統工芸の職人たち】

唐獅子牡丹と聞けばすぐに任侠ものの映画や彫り物を想像してしまう人、高倉健の見過ぎです。実は、かくいう私も、唐獅子牡丹と言えばやっぱり背中の彫り物んでしょう?と思っていた一人。
もう半月以上前のことになるが、松坂屋美術館で開催されている「東本願寺の至宝展」を見に行った時のこと。彫り物ではなく、それはそれは可愛らしい唐獅子牡丹に出逢ったのだった。


世界最大級の木造建築で、ふすま絵やら日本画やら、知られざる美術品の宝庫でもある東本願寺。私の家の宗派でもあるので、これは観ておかねばと出向いたのである。ちなみに私の祖父母のお骨は、京都・東本願寺のなんとかという台座???の下に眠っているはずなので、京都に行く際にはなるべく寄ってお参りするようにしている。このチケットにも印刷されているが、望月玉泉という日本画家による孔雀のふすま絵が、もう筆舌に尽くしがたいほどの素晴らしい物だった。恥ずかしながら、この展覧会ではじめて知った作家だったので「うわ〜すご〜い」と感嘆の声を挙げながら、このふすま絵の前を行ったり来たり、近づいたり遠のいたりしていたら、係員の人に不審な目で見られてしまった。だって〜孔雀の胴体の肉感とか羽根のふさふさした重なり具合が本当にすごかったんですもの〜。でも、こんなリアルな絵がふすまに描かれてて、夜中にご不浄に起きた時に見たら怖いでしょうね〜。


こちらが、同じく望月玉泉による”ついたて”で、「唐獅子牡丹図」。獅子のたてがみの筆使い、まるで動き始めるかのような躍動感、獅子と同化しないように細かいタッチで描かれた牡丹、そして真ん中のこの間合い。いや〜見事だわ〜と独り言を吐いていると、ここでまた先ほどの係員の視線を感じ、すごすごとついたての裏面にまわる。


そしたら、裏面にはこんな絵がっっ。紺色の獅子が蝶とたわむれているではありませんか。まだ幼い獅子が蝶にじゃれつこうとしている様子が、いかにも愛らしい。係員の存在を忘れ、か〜わい〜!と叫んでしまったら、近くで観覧していらしたやんごとない雰囲気の老婦人も「本当に可愛いわね〜」と言ってくださった。老婦人を味方につけた勢いで「ほ〜らね、素敵だなと思ったら声に出したっていいのよ!」という思いで係員をチラ見してみた。そしたら今度は係員に知らん顔された!無視かよっ!


というわけで、これまた今週の日曜日までではありますが、この展覧会に是非お出かけくださり、唐獅子牡丹図がいいなぁと思われたなら、ぜひその前で感嘆の声をおあげくださいまし。美術品は心に感じたままに観覧するのが一番楽しいと思うのでございます。皆さん、どう思われますか?