伝統工芸の職人たち

ドキュメンタリー映画 "紫"【伝統工芸の職人たち】


10年以上前に購入して、宝物のように大切にしている本がある。染織史家の吉岡幸雄さんによる【日本の色辞典】である。かつて日本のあちこちで植物染めをされてきた日本の伝統色を、古来から伝わる植物と染色方法で再現し、絹の生地を染めて辞典のように仕上がった本で、そこにはうっとりするような美しい色見本とともに、日本の四季の情景が頭に浮かんでくるような色の名前が連なっている。この本を読んで、あるいは眺めて、何度溜め息とともに妄想の世界に浸ったことか。数えきれないほどである。




これが私の宝物の本。
日本の色辞典。


中はこんな感じ。たとえば裏葉色とは、葉の表ではなく裏側の色のこと。ただのグリーン、緑ではなく、葉の裏側の少し白みがかった色のことをこんな素敵な表現で話していたんですねぇ。昔の人の鑑賞眼には頭が下がります。


もちろん眺めて溜め息ついてるだけでなく、原稿の資料にしたり、着物の色合いの表現を何度も参考にさせていただいた。また染料である植物についての知識や、地域の祭りや神社の行事にまつわる色の話などが全編に書かれているので、色の日本史として読み応えのある一冊なのだ。


この本の著者である吉岡幸雄さんは、京都の「染司よしおか」の継承者として生まれ、生家の家業を継ぐ前に美術図書出版「紫紅社」を設立している。上記の本はその出版社からの上梓である。美術図書出版でアートディレクターとして成功してから、実家の家業を継ぎ、染織家になっている。いつかこの人を取材したい、と思い続けているが、なかなかそのチャンスには恵まれないでいたところ、吉岡先生のドキュメンタリー映画ができたと聞き、私はもう何週間も前から浮き足立っていた。


映画は吉岡先生のインタビューから始まる。そして日本の色を追う二人の男性が描かれていく。吉岡先生と、染司よしおかで長年染色職人として働き続けている吉岡先生の右腕・福田伝士さんである。吉岡先生が、染料である植物の栽培を復活させて、農家さんと共同作業で研究開発している姿。福田さんが昔の色を実際の染色で実現している様子を、静かな視点で見つめ続ける映画である。ところどころで、二人の男性が語る話には、時に身につまされる思いが募った。失われてしまった色を現代に蘇らせるための涙ぐましい努力。昔の人々の仕事に挑戦する頑固な意志。これら静かな映像を見ていると、わたしたち日本人が失ってしまった色の奥には、人間の愚行がその原因であることが浮き彫りになっていくのだ。


名古屋では、今池シネマテークにて、なんと今週の金曜日までの上映である。きっと地味な映画だから、あまり興業収益が見込めないのでしょうね・・・。DVD化されたら絶対に買うつもりでいるけど、できれば多くの方に観ていただきたいので、日本の色にご興味のある方は、ぜひご覧になってください。名古屋の他は、横浜、京都、大阪、福岡などで上映が決まっているよう。詳細はこちらでご確認ください→ http://www.art-true.com/purple/