伝統工芸の職人たち

シャネルと東北の手仕事Vol.1【伝統工芸の職人たち】


昨年の東日本大震災以降、ずっと思いつめていたことがある。被災された方々のために私が出来ることは何だろう?と。
震災で多くの大切な命と物がなくなり、悲しみが日本中に渦巻いている真っ最中に、友人の左官職人・挟土秀平氏が「東北には素晴らしい手仕事がいっぱいあったが流されてしまった。職人の高い技術だけでなく、生活の中に崇高な手仕事が生きている地域だったのに」と悔しそうに語っていた。挟土氏が言うように、東北では真冬が農閑期になるため、自分たちの生活道具を作って冬を過ごしていた。暮らしの中で根気よく作られ、連綿と伝え継がれた「なんでもない物たち」。その多くが津波に流され、作り手たちは制作意欲をなくし、まさに貴重な日本の手仕事が、この世から消えゆこうとしている。


職人の手仕事や生き方に深い感銘を受けて、この15年ほど取材を続けてきた私が出来るお手伝いは、彼ら職人を守ることではないのか?彼らの手から生み出された素晴らしい手仕事の品々を多くの人に知らしめることではないのか?そう思いついてから、クライアントへの提案書や企画書に必ず「東北の手仕事」を加えるようにしたのである。私の勝手なる思いがそう簡単にクライアントに通じるわけはなく、一年以上が経過した今年の初夏、やっと思いが実を結んで東北の手仕事を取材させていただけることになった。それが、福島県三島町の伝統的工芸品に指定されている「奥会津編み組細工」である。山ぶどう、ヒロロ、マタタビといった植物の皮を用いて、バッグや籠、ザルなどの生活用品に編まれた物の総称で、素晴らしく繊細で美しい編み目模様と、高いデザイン性、そして丈夫で長持ちすることから、丁寧な生活者たちに絶対的な支持を受けている道具である。


山ぶどうで編まれたバッグ。福島県がルーツと言われている。奥が木の節を生かした乱れ編。手前がきしめん状に割いた山ぶどうの茎を編み込んだもの。モダンな着物姿にピッタリなので、籠ブームですっかり人気商品になっている。


こちらはヒロロ細工。紐状のヒロロが編み込まれていて、まるで布のよう。ヒロロには、生成り色を中心に、薄緑もあれば茶色もあり、それらの色を組み合わせるとなんとも優しいグラデーションになるから不思議だ。


これはマタタビ細工。マタタビは水を含むと膨張するので、米をこぼさず傷つけない。米研ぎザルにピッタリなのだそう。実はこのマタタビ細工の米研ぎザルを昨年末に購入し、年賀状の素材として使用したので、ご覧いただいた方も多いと思う。このマタタビ細工の山を見た時、ついついコーフンしてしまい、クライアントが横にいることをころっと忘れて右往左往。値札と大きさをにらめっこしてしまった。


というわけで、ミイラ取りがミイラになって購入したのがこのザル。いただいたばかりの沖縄の島ニンニクとパッションフルーツをのせてみた。野菜以外にもいろいろ飾ったり使ったりしてみたんだけど、やっぱり野菜が一番似合いました。


使い込むほど飴色に変化し、丈夫になると言われる植物の籠。これらは、もともと売るためではなく、自分たちの生活のために作られたもの。そこに心豊かな生活の循環があった。マタタビ細工の米研ぎザルは、昔の男達がみな親から作り方を教わったという。結婚したら、夫が作って妻に贈るのが習わしだったとか。こうした生活道具の素晴らしさを、なんとか次代へと繋げていきたいなとつくづく思う。プラスチック製の方が安価で扱いも簡単だけど、そこに愛情や思い入れは生まれない。なんでもない物にも生命力を与え、丈夫さだけではなく美しさをも追求する日本の手仕事。それを紹介していくことが、仕事を通じた私の社会貢献になるのではないかと思っている。今回、東北の手仕事を取材させてくださったクライアントR社のOさん、そして私のワガママな企画をアレンジしてくださった代理店N社のKさん。ここで改めてお礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。ホントにちっぽけな貢献でしかないのだけど、震災後一年半を経てやっと、役割の一部を果たせたような気になっています。
あ、ところでタイトルに「シャネル」とあるのに、本文には一言もシャネルが出てきませんでしたね〜。この続きはまた後日。シャネルと東北の手仕事の共通点について書きます!