伝統工芸の職人たち

和紙の力【伝統工芸の職人たち】


みなさ〜ん、マスキングテープってご存知ですよね。読んで字のごとく、何かを覆い隠すために使うテープのことで、資材を塗装する時に塗装しない部分を保護したり、建築資材の角っこなどが傷つかないように貼ったりする物である。粘着力がきちんとあるのにはがしても跡が残らないので、何かと便利なテープであり、最近ではプリント柄のマスキングテープが市販されていて、封筒のとじ目に貼ったりする女子的使い方がちらほら紹介されているようだ。
私は女子的使い方はあんまりしていないのだけど、陶器の金継ぎを趣味にしているので、金継ぎをする時にマスキングテープは欠かせないアイテムである。欠けたお茶碗を漆で直す時に、漆で汚れたり紙やすりでこすっても傷つかないように、健全な部分をマスキングテープで覆って守るのである。手でちぎれ、まっすぐのラインもR型のラインも自由自在に形づくれるマスキングテープは、手仕事をする人にとっては本当にスグレモノの道具なのだ。


と、マスキングテープをこよなく愛している私なのだが、実はマスキングテープの素材が「和紙」であることを、つい最近はじめて知ったのである。和紙を扱う環境で生まれ育ったというのに、なんちゅう不覚・・・。なんでも、マスキングテープは自動車塗装の現場で塗装をはがさずに保護するための物として開発されたらしい。日本では海外のマスキングテープに発想を得て、1918〜1938年の間に塗装と火薬包装用に和紙を用いたマスキングテープが生まれ、以後、和紙の使い勝手の良さから、世界中のマスキングテープに和紙が導入されるようになったのだそうだ。びっくり。和紙独特の柔らかさと薄さ、そして耐久性が成し得た商品なのだろう。


「マスキングテープは和紙でできているのよ」と教えてくださったのは、今お仕事でご一緒しているグラフィック&テキスタイルデザイナーのセキユリヲさん。セキさんは「天然生活」で”北欧の手づくり春夏秋冬”を連載されている。現在発売中の天然生活12月号には創刊8周年記念として、セキユリヲさんデザインのマスキングテープが特別付録になっているのである。それが一番上の写真。セキさんのテープ使ってますよ〜と私が話したところ、セキさんが和紙素材であることを教えてくれた。左上の写真は、セキさんのマスキングテープの私流使い方。一日の"to do list"と、現在抱えている原稿や仕事について、毎日メモしてmacに貼るのがクセになっていて、今までは生成り色の何の変哲もないテープを使っていたのだけど、ここのところセキさんデザインのテープが取って代わった。こうしてmacに貼っても違和感なくおさまるのは、和紙の優しさと幾何学模様のデザイン(編み図がデザインされている)が効いているのかな。数回は使い回しが出来るので、かなりのエコになる。「こんな薄いテープに印刷する技術はすごい、この印刷技術があるから最近は模様入りのテープが商品になってるんですね」と私が話すと、セキさんは「いやいや、印刷技術の前に、このテープに模様を入れちゃおうと発想したデザイナーがすごいのよ」と。確かに。無地から模様が入ったことで、マスキングテープは工業用製品から文房具・雑貨としての性格を持つことができたのだから。古くて伝統のあるモノに新しい発想とデザインを加えていけば、日本のプロダクツはもっと良くなる。この和紙の力のように、日本にはまだまだ素敵なものがいっぱいあるのだ。都会ではなくて地方にね。