伝統工芸の職人たち

ナイフのような職人との対峙【伝統工芸の職人たち】


7年ほど前に取材がきっかけで知り合いになり、その後、親しくさせていただいている左官職人の挟土秀平さん。その当時から、左官のカリスマと言われてマスコミでも注目されていたが、その後のご活躍は皆さんご承知の通りでめざましい。今では、大手メーカーの商品キャラクターに選ばれたり、左官アーティストとして個展を開催するなど、すっかり有名人である。ところが、彼はどんなに売れて有名になっても、芯がぶれるということが絶対にない。土と水に対する真摯な情熱や、より高みへと追い求める心、そして自然への畏怖は変わらず、むしろ強くなっていて、お話するたびにドキッとさせられる。どうして彼はこんなにも純粋でいられるんだろう。さらに最近は文章を書くことも彼にとっては大切な創造性となっている。彼が紡ぎ出した言の葉を何度も読ませてもらったが、我々コピーライターが入り込む余地のないほど、哀しくも美しい文学をつくりあげている。


その挟土さんの取材を、7年ぶりにさせていただくことになった。4月の中旬、飛騨の山頂にはまだ雪が残る頃、高山へと向かったのである。今までに偶然同じ人物を取材するということは何度かあったし、時間経過によるインタビューの差異を自分でも楽しむことができたのだけど。取材してから友人になってしまった人を再び取材するというのははじめての経験である。嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちだった。そして、普段から挟土さんの話は聞いていて、仕事の内容も個人的に建設を進めている洋館の進行状況もなんとなくわかっていたから、いざインタビューとなると正直言ってどうしたらいいのかわからなくなった。情けない話である。


クライアントの視点を考慮しつつも質問を選びながらインタビューしたつもりだったけど、結果としては「すごくコアな質問取材」になってしまったのだ。私とご本人は理解できたとしても、周りで聞いている方々には伝わらないことがあったんじゃないかな。インタビューの途中で「マリコさん、それ、飲み屋での会話になってますね」と代理店のO女史は笑いながら指摘してくださった。お、そうだった、ここは高山の酒亭ではないのだ。さらにその後、場所を移動するため挟土さんと私が車に乗り込んだ時、挟土さんから「取材ってあんなんで良かったの?いつもの調子でしゃべりたいことしゃべっちゃったけどさ」と真顔で聞かれた。あ、そうだった、これはいつもの電話トークではないのだ。


インタビューだか会話だかわからないような取材を終え、いろいろな方からの厳しいチェックを受けて出来上がった原稿は、以下の媒体でお読みいただけます。
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ナイフのように研ぎ澄まされたナイーブで純粋で怖がりな、それでいて土と水にすべての愛情を注ぎ込む職人の「今の姿」を書いているつもりです。取材中はインタビューに迷ったりしたけれど、その迷いが文章に出ていないことを祈りつつ、どうぞ皆様お読みくださいませ。