伝統工芸の職人たち

千家十職と洛中洛外図【伝統工芸の職人たち】


昔から私の悪い癖のひとつが、美術館の展覧ぎりぎりにすべり込みセーフして、時間制限がある中を慌てて観覧することである。またまた今回もそうだった。先日お邪魔したのが、愛知県碧南市にある「藤井達吉現代美術館」でおこなわれている[千家十職×みんぱく]という特別展だった。この美術館、名前は何度か聞いたことがあって、なかなか通好みの展覧をすることで知られつつあるらしい。千家十職と言えば、家庭画法をご覧になっている読者の方々はご存知だと思うが(連載されていたので)、茶事のあらゆる道具を作り伝える京都の十の家(職人)のこと。そして、みんぱくと言えば、日本が誇る研究機関でもあり博物館でもある国立民俗学博物館を略した言葉。この展覧会は、みんぱくが研究しコレクションしている何十万点にも及ぶ工芸品から、千家十職の当代がインスピレーションを受けてコラボレーションした作品を生み出し、展覧しているものである。千家十職という職人の家柄を大切に守り伝える当代の心意気を、作品を通して感じることのできる稀有な企画展だった。職人好き、工芸品好きの私にとって、千家十職は憧憬の的ということもあり、JRの車内で展覧の中吊りを見て以来、「ちょっと遠いけど、絶対に行くぞ〜」と心に決めていたものだった。


藤井達吉現代美術館は、昔の豪商街?と思われる一角にあり、
なかなか落ち着いた美術館だった。
一階にあるカフェは、手作りメニューが温かな印象の
アットホームな空間でオススメです。
ここに、やっとこさ行けたというわけ。コラボレーションの中身については見た人だけが感じることのできる世界なので、ここでは言及を避けるが、千家の方々がどんなご苦労を常々抱えて制作活動に携わっているかは作品越しに伝わってきたような気がした。千利休という偉大な先人の思想を受け継ぐわけだから、その家での子息に対する教育は生半可なものではなかったはず。そういうものの見方をする人でなければ生み出せない力強さが、作品群から感じることができた。これはあと少し、12月5日まで開催されているので、ご興味のある方は是非に!


こちらは岐阜市の歴史博物館で火曜日まで開催されていた「洛中洛外図に描かれた世界」。岐阜市の長良川河畔で生まれ育った私は、博物館のある岐阜公園は小さいころの遊び場だった。河畔の古い街並・川原町に祖父母の家があり、同じく川原町にある老舗旅館の十八楼は親しみ深い空間でもある。今回、この展覧会に展示されていた洛中洛外図の一点は、この十八楼が数年前まで個人所有していたもの。数年前に岐阜市に寄贈されたことで、修復計画が持ち上がり、多くの修復師の手を経て、はじめての公開となったのである。十八楼の大女将からご案内をいただいたので、早く行かなくちゃ終わっちゃうよ!と母に言われていたのに、なかなか時間が見つからなくて。まさに最終の火曜日に、母と叔母と女3人でお邪魔したというわけだ。


紅葉はじまった金華山を仰ぎ見て

紅葉はじまった金華山を仰ぎ見て

この時期の定番、菊花展!

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樹木ひとつひとつに思い出がある♥

樹木ひとつひとつに思い出がある♥


十八楼から寄贈された洛中洛外図は、岡山の林原美術館が所有しているものと同じ工房で制作されたことがわかっており、今回は林原美術館の洛中洛外図も展示され、その他にも徳川美術館やら方々の洛中洛外図が大集合。一度にこんなたくさんの洛中洛外図を見たのははじめてのことだったので、その違いを比較しながら楽しむことができた。面白かったのは京都の街のレイアウトである。徳川ルートと思われるものは、家康公が建立した二条城を大きく真ん中にレイアウトしている。一方、遊興好き?なオーナーのものは、祇園の芝居小屋が大きく真ん中に描かれ、道を歩く人もなにげに楽しそうである。「我が親戚一同は、どう考えても二条城派じゃなくて芝居小屋派だよね」と笑いながら見ていたら、そこに十八楼の若女将の知子さんが!旅館の女将業に多忙な毎日を送る知子さんは、ご自分の家が寄贈した作品なのに「今日はじめて見たんです」とおっしゃっていた。ぎりぎりすべり込みセーフを母になじられていた私は俄然気持ちが大きくなる。だって毎日お仕事してるんですもの、そんなものよね〜と大きな鳩胸をほっとなでおろした。