伝統工芸の職人たち

和菓子の風雅と旦那はん【伝統工芸の職人たち】


上半身を思い切り折り曲げて、手元の小さなオブジェクトに集中しているこの男性は、名古屋市瑞穂区にある和菓子屋さん[花桔梗]のオーナー・伊藤さん。この日は、とある企業の広報誌の特集記事で和菓子を取り上げることになったための撮影だった。制作スタッフ全員が男性で、彼らは和菓子とあまり縁のない生活をしているということもあり、紅一点で和菓子好きの私が企画段階から好きなことを言わせていただける幸運なお仕事だったのである。和菓子好きとは言え専門知識を持っていない私は、いわゆる素人の強みというもので、協力先の花桔梗さんに言いたいことを言い放ってしまった。こんな記事にしたいんです→だからこんな絵が欲しいんです→だからこんな和菓子を作って欲しいんですけど・・・・という思いを、オーナーの伊藤さんにぶつけたところ・・・あまりに暴挙な無茶ぶりに、電話の向こうでしばし絶句されていた。あれ、やっぱり無茶ぶりだったかな・・・と感じたものの、今更引き返すわけにもいかないので、絶句している伊藤さんにたたみかけるように説得を続ける。「実際に販売されるようなお菓子じゃなくていいんです、これはあくまでもイメージで・・・」すると伊藤さんは意外にもあっさりと「わかりました。かなり難しいチャレンジですけど、試作してみます!」と爽やかにお答えくださったのである。きっと心の中では、この人めっちゃ無茶ぶりするな〜とあきれていらっしゃったはずだが、それを微塵も感じさせずに爽やかにお引き受けくださるところは、さすがに和菓子屋の旦那はんである。



この日のカメラは、ブルースタジオの浅野さん。お茶目な浅野さんが撮影すると、現場の雰囲気がとっても楽しくなるので、勝手ながら大好きなカメラマンのお一人だ。淡々と粛々と、時にくだらない冗談を言いながら、撮影は進行し、最後にくだんの無茶ぶりしていたお菓子の撮影となった。お昼時間をとっくに過ぎて、みんなの胃袋がキューキューと鳴き始めていても、誰も文句を言わずに撮影に取り組む。難易度の高いお菓子を作ってきてくださった伊藤さんの思いに対して、無事に撮影完了するまでは気が抜けないというわけだ。小さな課題はみんなが少しずつ知恵を出し合って解決し、午後2時に無事終了した。もちろんみんなのおなかは空き空き状態。撮影に使った和菓子を伊藤さんがどうぞ食べてください、と差し出された瞬間に、全員の手が伸びた時は思わず笑ってしまった。だってクライアントの女性と私以外は、和菓子に縁がないと言ってた男性たちだったから。


それにしても、今回の和菓子撮影は、時間がない中、勝手な無茶ぶりばっかりしたのにも関わらず、絶対に「無理です」とか「出来ません」という言葉をおっしゃらなかった伊藤さんには頭の下がる思いだった。江戸時代から脈々と流れる和菓子職人の心意気がそうさせるのか、よっ!旦那はん!と拍子木を打ちたくなるような気持ちの良いお仕事ぶりだった。実は先日とあるパーティーにて、遠方からの賓客へのお手土産に特別オーダーの和菓子が手渡されたが、その製作も花桔梗さんがお引き受けになった。きっと評判の良いお菓子を創られたのだろうと拝察している。和菓子屋の旦那はんから、和菓子の風雅と仕事の粋を教えていただいた。


この企業の広報誌、なかなか良い仕上がりで、来月初旬に発行予定でございます。ご興味のある方はメールください。広報誌が発行されたら、こっそりPDFでご覧いただきますので。また和菓子好きの方は、ぜひ花桔梗さんにもお出かけくださいまし。日本の季節を美しい形にした伝統的な生菓子・干菓子はもちろん、かりんとうや和マカロンなどのジャンルを超えた創作和菓子も数多く取り揃えていらっしゃいます。お店の雰囲気もそれはそれはモダンでカッコいいですぞ。「花桔梗 名古屋」でググッていただけばすぐに出ます。桜通線・桜山駅より徒歩10分程度。月曜定休。ちなみに私が無茶ぶりした和菓子は、もちろん販売されておりません、はい。