伝統芸能の継承者たち

仮名手本忠臣蔵【伝統芸能の継承者たち】

錦秋の名古屋で、毎年のお楽しみは吉例顔見世。
今年は「忠臣蔵」が昼夜通し、歌舞伎ファン垂涎の豪華キャストとあって、随分前からあちこちで話題になっていた。


歌舞伎だけに用いられる定式幕。
舞台の上手から「茶汲み」(茶・黒・緑)と覚える。
この茶汲みの3色は、江戸時代の森田座で使われていた色で、
中村座では「黒・茶・白」(先月の平成中村座はこの定式幕だった)、
市村座では「黒・茶・緑」だったそうだ。現在の私たちが歌舞伎の定式幕として知っているのは、江戸時代の森田座の定式幕だったのだ。ちなみに、定式とは「決まったやり方、ルール」のことで、「一般通念」の常識とは意味が違う。歌舞伎の引き幕は、この色で作ることがルールになっている、ということなのだそう。今では、ルールのことを定式と表現する人が少ないのは、常識と定式、同じ発音でややこしくなってしまったのだろうか、と勝手に想像している。


今回の演目は日本人が大好きな忠臣蔵で、涙なくしては観ることができない舞台だった。水戸黄門や大岡越前と一緒で、話の流れは完全に頭に入っており、最後がどうなるのかも分かっているのに、役者さんたちの迫真の演技と、歌舞伎ならではのキメ台詞や立ち回りに、すっかり忠臣蔵の世界へとワープした一日となった。お昼は橋之助さんの塩治判官、夜は仁左衛門さんの勘平に福助さんのお軽、そして再び橋之助さんの平右衛門に、ワタクシ泣いてしまいました。鼻水ズルズルやっていると、お隣のお品の良いご婦人もズルズル。ズルズルは、広範囲に渡って感染しはじめた。前から4番目の席だったので、私の周りのズルズルは当然役者さんに丸聞こえ。するともらい泣き?をしてくださったのか、或いはご自分の演技の世界に入って自然に泣けたのか(当然こっちですよね)、橋之助さんもズルズルやりながら台詞をしゃべっているではありませんか。知らない人同士みんなで泣きながら、舞台を観るというのも、なんだか不思議な取り合わせだなぁ。袖すりあうも多少の縁というけど、この日の御園座は、ズルズルし合うも多少の縁、の会場風景だった。


最後に討ち入りを果たして幕が閉じ、すかっとした気分で帰路につき、帰り道にあるおなじみ和蕎楽にてまたまた酒宴。この日のお着物は、紺の縦縞紬に、秋らしくお月様とススキの帯。この着物、自分のお金ではじめて買った想い出の紬なのだ。お嫁入り道具やらお茶会用やらに(未だにお嫁にいけてないけどっっ)母が用意してくれた母好みから、私好みへと脱却した記念の誂えだったのだ。今、改めて見ると、ちょっと渋いかな〜。