伝統芸能の継承者たち

名古屋をどり【伝統芸能の継承者たち】

先日、母と二人でお出掛けしたのは、「第62回西川流名古屋をどり」だった。今年は、名古屋をどりをスタートさせた西川鯉三郎さん生誕百年に当たる年だそうで、例年のような舞踊だけではなく、名古屋をどりの歴史紹介から舞台が始まった。鯉三郎さんの生い立ち、歌舞伎界での修行、結婚して名古屋に来てからの活躍、そして戦後の大変な時代に名古屋をどりをスタートさせた話などが語られる。鯉三郎さんは、多くの劇作家や芸能関係者との交流があった人で、高名な方との舞台共演を実現させた方でもある。中でも驚いたのは、美空ひばりと舞踊で共演していることである。美空ひばりが日本舞踊をやっていたことさえ知らなかった私は、白黒フィルムの映像が本当に美空ひばりなのかどうか、目をこすりながら見入っていた。最後にあの独特の声で礼を述べるシーンがあり、あぁ本当に美空ひばりだったんだ!と納得した次第。


一方の母が隣で少女のように喜んで観ていたのは「長唄 鷺娘」を踊った茂太郎さんだった。今年の2月ごろに名古屋能楽堂で催された「鯉女会」にも茂太郎さんは出演されており、その時の「紅葉狩」が素晴らしかったので、今回も事前から「鷺娘」をずいぶん楽しみにしていたのだ。確かに茂太郎さんの「鷺娘」は存在感のある舞台だった。

茂太郎さんの舞台が終わると、母は遠い目をして言った。
「ママが結婚する前に最後に出た踊りの会でね、島の千歳を踊ったんだけどね、その時に後見をやってくださったのが茂太郎さんだったの。途中で汗をふいてもらったんだよ。その頃からあの人かっこ良かった〜」と。

な、な、なぬ?
茂太郎さんの踊りにうっとりしてたんじゃなくて(もちろん踊りにもうっとりはしてたんだろうけど)、茂太郎さんそのものにうっとりしてたわけ?

どうやら、日本の伝統を守ろうとか、継承しようといった高尚な言い訳は、母には通用しないようだ。やっぱり、この母にしてこの私ありだな〜とつくづく実感したのだった。