伝統芸能の継承者たち

市川櫻香さんの名古屋むすめ歌舞伎【伝統芸能の継承者たち】


日曜日は、市川櫻香さん率いる「名古屋むすめ歌舞伎」へ。もともと常磐津師匠を祖母に持ち、鳴物・長唄や小唄・三味線の師匠を母に持ち、西川鯉女さんに日舞を習った櫻香さんが、むすめ歌舞伎を始められたのは約30年前。市川團十郎家から名を許され、女性のみで構成する歌舞伎団体として活動されている。昨年の團十郎さんの訃報でショックを受けていらっしゃると聞いていたので、陰ながら心配していたのだけど・・・。今年は團十郎さんの長女である市川ぼたんさんを招いての会が開催されることになって良かったです。


ご一緒いただいたのは、櫻香さんの従姉妹で、映画ナビゲーターの松岡ひとみさん。ひとみさんはご自身も西川流名取りであり、お母様が西川流のお師匠さん、お祖母様が常磐津のお師匠さん、従姉妹がむすめ歌舞伎という芸能一家で育っている。


この日は一部と二部に分かれていて、一部が市川櫻香さんの歌舞伎舞踊『長唄 菊慈童』。この舞が、どこからどう見ても可愛い童女にしか見えない。舞う技術があれば年齢なんて簡単に超えてしまうのだから、ホントに舞踊ってすごいですよね。その後、團十郎さんの長女である市川ぼたんさんと共に團十郎さんを偲ぶお話。2007年と2009年の「市川櫻香の会」で演じられた舞台映像が流された。おなじ名古屋能楽堂の舞台ということもあり、まるで目の前で團十郎さんが演じていらっしゃるような錯覚に陥ってしまった。


そして二部が【名古屋むすめ歌舞伎】。二部からは、元深窓のワガママお嬢の母が参戦。舞踊が3曲続いた後に、市川家の十八番である外郎売が演じられた。例の、ぶぐばぐぶぐばぐみぶぐばく・・・あの早口言葉を19歳の曽我五郎が見事に演じきって、会場は大拍手。朝比奈の面白みも工藤祐経の哀しみもとても良かった。敵討ちの話なのに、視点が女性なんですね。慈しみとかやさしさが前面に出た外郎売になっていた。これはむすめ歌舞伎ならでは!と楽しませていただいた。


市川櫻香さんとナビゲーターの方のお話が続き、その後は市川ぼたんさんの舞踊【長唄 島の千歳】。さすがに市川ぼたんさん。圧巻でした。西川流の島の千歳しか観た事がなかったので、歌舞伎舞踊としてのぼたんさんの舞は、とてもキリっとしていてイメージがまったく違っていた。隣でずっと解説してくれていた母も「西川とは随分違うねぇ」としみじみ。母も若い頃は西川で舞踊を習っていて、島の千歳を舞台で踊った経験があるのだ。なんでも難しい舞踊なので「お師匠さんに教えてもらう時、泣きながらお稽古した」んだそうな。鼓は一人だけで打つので、鼓を担当する人も難しいからと嫌がることが多かったらしい。


母が箪笥の中から取り出して見せてくれた、
母の「島の千歳」の写真。
「まだパパのことを知らない時代、この頃は良かったわ」
と、若かりし頃の自分にうっとりしてました。


ところが、この日、母がいちばんうっとりしたのは、ぼたんさんの舞踊でも、自分の舞踊写真でもなく、この日にナビゲーターをされていた村上信夫さんでした。元NHKアナウンサーで、とても還暦には見えなかったし、おしゃべりも進行も確かにとてもお上手でしたけどもがっ。「かっこいいわ〜目の保養になるわ〜」を連発するとはねぇ。
うーむ、むすめ歌舞伎と舞踊を観に来たんじゃなかったっけ?と思いつつ、母の嬉しそうな顔を見ていたら、ついぞ何も言えなかった。なぜかというと、何十年か先の自分の姿を見たような気がしたからだ。