伝統芸能の継承者たち

奥三河・東栄町の花祭り Vol.2【伝統芸能の継承者たち】

またまた花祭りのお話。このお祭りでは、地元の方々との会話から、本当にいろんなことを学ばせていただいた。山里の小さな集落で暮らす彼らの、昔から受け継がれた知恵や知識の深さは、いちいちうなづけるものばかりだったし、地元を愛するがゆえの懸命さには、絶対的な希望とある種の諦観が微妙に混じり合っていることを知る事ができた。


祭り会場には「接待所」と呼ばれる場所があり、お見舞いを持っていった人はそこで接待を受けることができる。地元のお母さんたち手作りのご飯とお酒をいただきながら、お父さんたちがいろんな話をしてくれた。東栄町を離れ、普段は岡崎や豊橋に住んで仕事をしている人たちも、このお祭りにだけは必ず帰ってくること。このお祭りがあるから、東栄町にある家を手放さず、持ち続けていること。祭りの舞は昔から、東栄町の家に生まれた男児だけに許されていたが、子供の数が減ってしまった今、女児も許されるようになり、さらに東栄町以外の町から子供を借りてお祭りを継承させる努力をしていること。そして、なんと!「お嫁にいらっしゃい」という有り難いお言葉までかけていただいた。田舎暮らしはいいよ〜と。Kさん、あの時はありがとうございました。


こちらは舞台上の囃子方。太鼓をたたいているのが、保存会長の小野田さん。誰よりも動き回り、誰よりも真剣な眼差しで祭りを見つめていた。小野田さんの真摯な姿はホントにかっこ良かったです!その左のベレー帽のおじいちゃまが、前保存会長で御年80歳。小林の花祭りの生き字引と呼ばれている人で、少しでも多くのことを次世代に言い伝えようとする姿にすっかり魅了された。
前日の準備の時にはジャージやフリース姿だった人たちが、ひとたび祭りが始まると、着物を纏い、笛を吹き、太鼓を鳴らし、唄を謳う。ごく普通のお兄さんやオジサンだった人が、お祭りの姿になるときりりと見えて、いきなりかっこ良くなる。正直言って、前日とお祭り当日では同一人物だとは思えない方が何人もいらっしゃった。これは花祭りの魔法だな、きっと。


そして、なんといっても注目を集めたのは、4歳の裕斗くん。稚児の舞で今年はじめてデビューした舞子である。40分近い時間を、見事に舞いきった。大人でも緊張して間違えてしまいそうな難しい舞を、数回の練習でよくも身につけたものだと思う。聞けば、裕斗くんのご先祖は、花祭りに関わる神職だったのだとか。裕斗くんパパが花祭り好きで東栄町に毎年通ううちに、裕斗くんに舞ってみないかと声がかかったそうだ。ご先祖が花祭りに関わっていたことは、舞子になることが決まってからわかったというのだから、縁というのは本当に不思議なものである。きっと神様が引き寄せてくださったんでしょうね。花祭り好きな裕斗くんパパはお隣の長野県阿南町で暮らし、地元愛に満ちた生活の様子をブログにされているので、ぜひおたずねください。


午前に出番だった裕斗くん。深夜まで元気いっぱいにお祭りを味わっていた。最後の湯ばやしの舞が始まった時、裕斗くんが舞いたそうにしていたので、「裕斗くん、お兄さんたちと一緒に舞っちゃえば!」と言うと、神妙な顔で「鈴がないからダメや」と一言。舞子が手に持っている鈴のことを言っているのである。小さいながらも、お祭りのルールを体で覚えているんだな〜と感心。ところが!やがて湯ばやしがクライマックスとなり、会場全体が高揚感に包まれたその時、裕斗くんはもうガマンできない!といった面持ちで、いきなり一人舞い始めたのである。堰が切れたように夢中になって舞う裕斗くんの姿に、私は再び神様の存在を感じてしまった。裕斗くんの背中を借りて、神様は希望に満ちた未来を語ってくれたような気がしてならない。裕斗くんが、来年の花祭りではどんな舞を見せてくれるのか、体が覚えたあのリズムを一年後の彼がどう表現してくれるのか。そんなことを考えている私は、すでに花祭りの磁力に引き寄せられてしまったのだろうか。