伝統芸能の継承者たち

奥三河・東栄町の花祭り Vol.1【伝統芸能の継承者たち】

一ヶ月ほど前、奥三河に出掛けた。早朝から深夜までお祭りをぶっ通し取材する目的である。寒いのと眠いのが滅法弱いぐうたらな私に務まるかしら?と不安を抱えながら、前日のうちに向かう。道はだんだんと山の中に入り、現地に近づくと携帯電話が一気に圏外になった。外界と遮断されたような気持ちになって、いささか寂しい気持ちに・・・。
その祭りの会場である諏訪神社の前には、すでに地元の人が集まっていた。その何人かの方と会話を交わしたら、ついさっきまで抱いていた不安感はどこかに飛んでしまった。そこにいた人々の顔つきが、あまりにもはずかしそうで、あまりにも嬉しそうだったから。そんなキラキラ輝く目を見たのはいつぶりだろう?


奥三河の東栄町では、11月から3月まで、全部で11の地域で花祭りが行われる。700年以上に渡って継承される神事芸能で、この山里に脈々と伝承されてきた。私がお邪魔したのは、小林地区である。


鬼、人間、神の舞が終日続く

鬼、人間、神の舞が終日続く


鬼の舞

鬼の舞


稚児の舞

稚児の舞


朝の9時ごろから夜の11時ころまで、絶えることなくひたすら舞う。囃す。ひとつの舞が30分から長いと1時間。子供も大人も舞い続ける。予想以上にテンポの早い舞で、体力だけではなく気力が続くことに、思わず感心する。


地元の人は子供のころから花祭りを舞ってきているので、独特のリズム、笛や鈴の音がしみついているよう。前日の準備の段階では、すでにその音が体のどこかで鳴り始めているのだ。だから、あんなに輝いた目をしていたのだな。朝のうちは淡々と見えたが、夕方から夜にかけては、お酒の酔いも手伝ってか会場全体が高揚感に包まれていく。最後の舞を見てドキッとした。テンポが早くて舞い手の顔はよく見えないが、その後ろ姿が妙に色っぽいのである。この色気はなんなのか?背中の哀愁と漂う香りに惹きつけられて凝視した。なんと、舞い手3人は高校生とおぼしき少年だったのである。人の色気は涙の数で決まるはずなのに・・・、な〜んて歌詞のような言葉が浮かぶ。少年たちの舞は、まるで人生の悲哀を知っている人の踊りのように見えたのだ。そして、クライマックスを終えてみて、少年の舞に色気を感じた理由を理解することができた。


クライマックスの湯ばやし

クライマックスの湯ばやし

最後は真ん中の釜の湯を、舞子が周囲の人に振りかける。そのお湯を浴びると、一年間を健康に過ごせると言われているそうだ。


この祭りは、全国の神様をお呼出し、集っていただき、悪霊を祓って無病息災を願うもの。つまり、祭りの間中、神様はわたしたちの目の前に降りてきているのである。最後、クライマックスの湯ばやしを舞った少年たちの背中を借りて、神様は人生の悲哀を語ったのではないだろうか。それが私の目に色気として映ったのではないだろうか。神様も色気の素になる涙を、いっぱい流してくれているのかな。そんなことを考えている私を知ってか知らずか、汗とお湯でびっしょり濡れた一人の少年と目が合う。彼ははにかんで微笑んだ。なんとなく、神様と通じたような気がした。


※花祭りを取材した文章は、とあるクライアント様の広報誌にてお読みいただけます。カメラマン松本氏による写真がとても素晴らしいのでぜひご覧ください。ご希望の方は下記アドレスにメール送信してください。
Sassi-ko-ryu.Koe@chuden.co.jp
1.郵便番号・住所、2.氏名(ふりがなを添えて)、3.なぜ欲しいと思ったか、を記入の上、お申込くださいませ。