徒然なるお仕事

タクシー運転手の予言【徒然なるお仕事】


先月と今月はほんっっっとに忙しいです。毎年この時期は、次年度制作物の改変のタイミングとなるため、企画と仕込みと取材と原稿書きが混乱するほど続き、いつまでも長いトンネルを走っているような感覚に陥ってしまう。数々の不義理を重ねておりますが、あと少しでトンネルから抜け出せる予定なので、どうか皆様お見捨てなく、よろしくお願いいたします。
久しぶりのコラムアップは、15年前にある人から告げられた予言について。嘘みたいなホントの話なので、しばしおつきあいくださいませ。

今からちょうど15年前、あるパーティーに出席するため箱根に向かった時のこと。新宿発のロマンスカーを箱根湯本で降りて、タクシーで山のホテルに向かう間に、運転手さんが話しかけてきた。
「お客さん、着物着てるけど、何の仕事? いや、ちょっと待って。僕が当てるから」にこにこ笑いながら私の職業を予想してゲームをしているかのように楽しんでいたその方は、おそらく50歳くらいだっただろうか。結局、私の職業を当てることはできなかったが、約30分の乗車時間にすっかり打ち解けて会話を楽しんだ。そしてタクシーを降りる間際に、その人は謎掛けのようなことを言った。
「お客さん、今から15年後、どうなっていたい?」
そう問われても即答できなかった。
「すぐに答えられないなら、今夜ゆっくり考えるといいよ。そして私が予言してあげる。お客さんはあと10年か15年くらいしたら、今の願いが叶った暮らしをしているよ。私は予言者でも霊能者でもないのだけど、人の未来をなにか感じ取る力があってね。すべての人の未来がわかるわけではないのだけど、あ、この人の願いはきっと叶うな、って感じることがあって、今まで殆どそれが当たってきたの。嘘じゃないよ。嘘じゃないことは15年後に分かるから。楽しみにしてて」なんとなく信じたようなそうじゃないような不思議な気分になったことを、今でもはっきりと覚えている。


15年前はおろか、コピーライターとしてかろうじて独立して仕事を始めた頃から、仕事の欲目がイマイチ弱いのが私の欠点であった。楽しく仕事ができればいい、一人分の生活費が稼げればいい、という欲目しかなかった。何が何でも年商アップするとか、会社設立するぞとか、この仕事は絶対にとるぞ!という気迫がない反面、好きな分野にはとことん情熱と時間とお金を費やしてきたので、ある一部の分野については、人よりも多少は詳しい知識を得ることができた。先輩諸氏からは「アシスタントを入れてスタッフを増やしてやってみたら?」「デザイナーを入れてプロダクションにしたら?」などと進言されたけど、仕事を大きくしても責任をとる自信はなかった。だから15年前の夜に考えた将来像とは「好きな物や人に囲まれて毎日の暮らしを楽しんでいる流れの中で仕事をする、そんなクリエイターになれたらいいなぁ」という経営的視点で見るとかなりゆる〜い目標だったのである。


ゆるい仕事目標のおかげで、やっぱりいまだに大したコピーライターにはなれていないのだけど、実はそのゆるい目標をゆるいなりに達成できていることを、友人が気づかせてくれた。というのも、ここのところ日頃の遊び仲間たちをルートにして、新しいお仕事が幾つか舞い込んで来ているのだが、そのオーダーが「いつものマリコさんの世界観で原稿にして欲しい」「これは絶対にマリコさんが好きな分野だと思うから是非書いて」というとっても有り難く嬉しいお声掛けで、お仕事に結びついているのだ。
ちなみに一番上の写真は、友人ルートの仕事での撮影シーンにて。急遽「手モデ」することになった友人の後ろ姿。この撮影時のランチは食べるタイミングを自分で見計らって適当に済ます、というシステムだった。撮影に没頭した私がさくっとランチできたのは14時過ぎ。一人でむせながらお弁当を食べてると、手モデ友人の上司(こちらも同様に友人)が気をつかって話しかけてくれた。「マリコさん、この仕事して何年になるの?今の仕事は向いてると思う?」今まで一緒にお酒を飲んで遊んだことはあっても、仕事の話をしたことがなかったので面食らいながらも「そういえば年をとるごとに、仕事の方が私に寄ってきてくれる気がする」と答えた。考えようによっては随分生意気な発言なのだけど、帰り道に、自分のその回答と15年前に抱いた将来像が見事にマッチしていることに気づいたのである。「あの運転手が言ったことは当たってたんだ!」と。


こちらは友人の輪がつなげてくれた、とある陶器会社のお仕事。
「ぎやまん陶」という名の美しい陶器です。
ミイラ取りがミイラになって取材中に即購入。
しばらく忙しくてご飯会が開催できていないけど、
来月我が家に遊びに来る方々にはこれでお出しします。


こちらはとある老舗料亭にて。レトロな電話器とカーテンの感じがまるでドラマのシーンみたい。何度か一緒にお食事したりお話しているうちに、私の方で勝手に姉弟みたいな感覚だなと思ってた老舗料亭の若旦那から嬉しいお仕事をいただくことになった。若旦那、企画案もうすぐお持ちしまっせ。しばしお待ちくだされ。


友人ルートの仕事というのは、かえって気づかいも多くなって仕事としてはやりにくいと思っていたのだけど、実際に仕事してみると意外にそうでもなくて自分でも驚いている。多分それは「普段のマリコさんで」というオーダーのおかげで、のびのびとやらせてもらってるからかな。こんな風に書くと、まるで売れっ子のように聴こえるかもしれないけど、実際は請求先に逃げられてお金をとりっぱぐれたり、未払いに泣いたりしているので経済的には決して豊かとは言えない現実。ま、でも元々がゆるい目標だったのだから、毎日を楽しく暮らしていれば、それが仕事につながってゆくと信じて、明日も原稿書きに勤しもうと思っている。
そして、15年たった今年、また箱根の山のホテルを訪ねてみようかなと計画中。できればまた箱根湯本からあの運転手さんにタクシーに乗せてもらって、今度は今から15年後に願いが叶う顔をしているかどうかを、教えてもらえないかと思うのだけど。どうでしょうね。