徒然なるお仕事

岳の幟〜お祭りの記憶【徒然なるお仕事】


岳の幟(たけののぼり)というお祭りをご存知だろうか。長野県上田市の別所温泉に五百有余年に渡って一度も途切れることなく続けられている雨乞いのお祭りである。とある企業の広報誌で、このお祭りを取材することになり、七月の酷暑の日に山登り取材を敢行した。その時のお恥ずかしい様子は直後にコラムでもご紹介したので、いろんな方から「山登り大丈夫だった?」とお声をかけていただいた。山登りならぬ悲惨な山滑り体験となってしまったのだけど、秋風が吹く今となっては、あの時の太陽の照り返しや早朝の山頂風景などを懐かしく思い出すのだから、人間の記憶というのは都合良くできているんだなぁとつくづく思う。



左が第一陣+私たち取材陣が登りきった山頂で、御神酒をいただく瞬間の図。この先はいわゆる雲海で、地上が遥か下方に見えていた。右は第二陣が頂へと登ってきた瞬間の図。これ以外の写真は残されていなかった。登るのと下るのと滑るのに必死でカメラなど構えられなかったのである。


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※岳の幟を取材した文章は、とあるクライアントの広報誌にてお読みいただけます。
写真がとても素晴らしいのでぜひご覧ください。ご希望の方は下記アドレスにメール送信してください。
Sassi-ko-ryu.Koe@chuden.co.jp
1.郵便番号・住所、2.氏名(ふりがなを添えて)、3.なぜ欲しいと思ったか、を記入の上、お申込くださいませ。
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さて、この取材で私が一番ビックリ感激したのは、お祭りの衣装である。舞を踊る少女たち、獅子舞の青年たち、そして練り歩く人々など、皆そろって昔のままの装束をまとってのいでたちであった。五百有余年ずっと同じ素材というのはあり得ないにしても、現代ならついつい安くてお手入れしやすい化繊に頼りがちなのに、綿や麻素材にこだわり、それを身につけているのである。



↑ほらほら、ちゃんと感でしょ?↑綿とは言っても今年の酷暑の真っ最中だったので、皆さん汗びっしょりで熱中症になるんじゃないか?と心配するほどだったけど。さらに衣装をよく観察すると、昔ながらの文様がきちんと染め抜いて作られていた。たとえば獅子舞の衣装の上部分は「獅子の毛」と呼ばれる文様で着物の意匠にもよく用いられるものだ。下部は縞模様、ストライプですね。清々しい獅子の舞も衣装も、ホントかっこ良かったなぁ。


そして私が一番胸キュンだったのはこのオジサマ方である。紋付袴姿にカンカン帽!まるで昔の旦那衆のような粋な姿に見とれてしまい、広報誌の取材だということを一瞬忘れて、オジサマ方にくっついて話を聞くのに夢中になってしまった。オジサマ方は皆、夏の召し物と袴の上に、家紋を染め抜いた絽の夏羽織姿。聞いてみると全て自費で作っているのだとか。地元のお祭りを守り伝えるにも、やっぱりお金はかかるんですねぇ。明治末期に流行し始めたカンカン帽は、大正時代から正装時の着物姿に許されたそうで、以来、岳の幟では皆このカンカン帽をかぶるのだそう。実はカンカン帽と言えば"嘆きのボイン"で有名な月亭可朝を連想しちゃう下世話なワタクシ。一夫多妻制を公約に掲げて落選しちゃった落語家ですネ。でもこのオジサマ方は「ボインはお父ちゃんのもんやないんやでぇ」などとは勿論おっしゃらなかったので、おかげでカンカン帽イコール大正時代の正装姿という正しい認識を身につけることができた。カンカン帽を正しくかぶるオジサマ方と共に、粛々と別所の街を練り歩いたのだった。こらホンマやでぇ〜。