えとせとら

蓄音機の夕べ再び【えとせとら】


蓄音機にはじめて出逢ったのは1年半くらい前のことか。友人Sドクター夫妻のご自宅で催された蓄音機のコンサートディナー会でのこと。わたしたちが普段聴き慣れている電気的な媒介を通しているものと明らかに異なるその音は、ひと晩たっても体から消えることなく残っていた。その時の蓄音機の残像について書いたコラムはこちら
その残像が忘れられず、後日、某レストランで蓄音機による音楽とお料理とワインを調和させようという無謀な試みをSドクターとともに楽しんだこともあった。「そろそろまた聴きにこない?SP盤がけっこう増えてるからさ!」とお誘いいただき、第3弾のコンサートディナー会にお邪魔してきたのだ。


前々回のSドクター夫妻宅、前回の某レストランでの会から、時間も経っているし、わたしたちの耳も蓄音機に慣れてきたのと、Sドクターのコレクションが増えているので、時代ごとにSP盤の音源に違いがあることを聴き分けることができたのは驚きだった。
エディット・ピアフの「La vie en rose」は、蓄音機の隆盛期といってもいいと思うのだけど、まるでそこにピアフがいるかのような臨場感とピアフの緊張感が蓄音機から放たれて、思わずこっそり落涙してしまった。ところがもう少し時代が後になると、おそらく録音方法も進化したのか、エルビス・プレスリーの「Love me tender」では、プレスリーが蓄音機の前で聴く人々の表情を思い浮かべながら唄っているかのような余裕を感じるのである。エルガー自身の指揮による「威風堂々」は、前半がびっくりするほどテンポが速くて、エルガーは本当はこの速さで、あの名曲を聴いて欲しかったのかなーと想像したり。


Sドクターのコレクションには日本の古いものもいっぱいある。春日八郎、三波春夫、美空ひばり、霧島昇、笠置シズ子などなど、懐メロで聴いたことがある唄ばかり。中でも印象的だったのは、西条八十作詞、服部良一作曲、藤山一郎歌唱による「青い山脈」。♬若く明るい歌声に 雪崩は消える 花も咲く♬っていうあの唄ね。Sドクターによると、これは世の中が暗く落ち込んでいた戦後から、復興を願って新しい時代への希望がこめられた唄なのだとか。♬古い上着よさようなら さみしい夢よさようなら♬という歌詞はまさに新しい時代に踏み出そうとする気持ちそのものである。戦後復興を目指す日本人が、蓄音機から流れる「青い山脈」で気持ちを奮い立たせたのかなと想像してたら、再びこっそり落涙。やっぱり蓄音機には、音楽以上の影響力をわたしたちに及ぼすようである。


蓄音機はSドクターがぜんまいを手回ししたり
一枚ずつ針を変えたりする手間がかかるので
お料理はみんなで持ち寄り。
すごいラインアップのメニューになりました。


これがこの日の蓄音機コースメニュー!
いつもながら、Sドクターのセンスには脱帽です。
あ!先生のコレクションにピアフのpadampadamを見つけたのに
かけてもらうのをすっかり忘れてた!今度お願いします!笑


この日のごはんは、
萌黄色の春らしいお鍋
しかも名前入りのバーミキュラ鍋で炊いた
あさりご飯!


あさりご飯に
柚子をかけてくださるSドクター。


アートもインテリアも
お料理もワインも
とにかく素敵なSドクター夫妻のご自宅。
いつもありがとうございます。
また次回もぜひよろしくお願いいたします!