えとせとら

山本益博さん農事功労賞オフィシエ受勲【えとせとら】


料理評論家の山本益博さんが、フランス共和国より農事功労賞オフィシエを受勲された。2001年に農事功労賞シュバリエをすでに受勲されており、今回はシュバリエからオフィシエへと昇格されたわけである。マスヒロさんといえば、日本ではじめて料理評論家という職業を確立し、料理人の創意と技術を正確に見極めてフランス料理を中心に広く普及されている方。日本でまだフランス料理がさほど知られていない時代から本場に出向いて、本物の味を分かりやすく軽やかな文章でわたしたちに教えてくださったのである。ひと皿に込められた料理人の情熱に真剣に向かい合い、卓を囲む仲間との会話を心から楽しむその姿に、料理界のみならず多くのファンがいる。日本の若手料理人とフランス料理への架け橋となるべく、様々な活動もされている。農事功労賞オフィシエ受勲は、マスヒロさんの活動実績を鑑みたら、当然というより、むしろ遅かったのではないかとさえ思える。


先日、ジョエル・ロブションのレストランで「益博さんの農事功労賞受勲を祝う会」が催された。発起人は林農林水産大臣、すきやばし次郎の小野二郎さん、ジョエル・ロブションさん。
マスヒロさんからお誘いいただいて、すぐさま「絶対に伺います!」とお返事し、私もその会に参加する栄に浴した。この会では、在日フランス大使館からの叙任式を兼ねており、上の写真は在日フランス大使から叙任されている瞬間である。


マスヒロさんをお祝いしたいと駆けつけたおよそ100人の参加者は、ワイン評論で有名な弁護士の先生、作家、音楽家、ファッションデザイナー、アナウンサー、そして食にまつわる様々な職業の方などいわゆる文化人ばかり。マスヒロさんをはじめ参加者の方々の大人なふるまいに、会は落ち着いた空気感のまま進行していく。


メインディッシュのお肉が終わったころだった。司会の有働アナウンサーからの「マスヒロさんが世界でもっとも大切にしている人からのサプライズがあります」という紹介と共に、会場にスクリーンがあらわれた。


マスヒロさんのお嬢さんのピアノ演奏の様子だった。マスヒロさんのお嬢さんはピアニストを目指し、現在ハンガリーの音楽大学に留学中で、この時は夏休みで帰国されていたのだった。演奏の映像は、ニューヨークでの演奏会とのこと。有働アナウンサーから「音楽の世界の美しさも厳しさも知っているマスヒロさんがお嬢さんを音楽の道に歩ませていらっしゃいますが、どんなことをお嬢さんにお話になっているんですか?」と質問されると、マスヒロさんは「なるべく体を動かさず、感情を顔に出さずに演奏しなさい。体を動かしたり感情を露にするとそれだけ演奏に集中できなくなるから、と言っています」とお答えに。いやいや、娘を心配する親からの助言というよりもそれってプロのアドバイスですよね。そう思っていたら、すかさず有働アナウンサーも「えーと、そういう文化的なことではなく、親から子への言葉ってもう少し違うのでは・・・」と愉快な言葉を添えて会場にも優しい笑い声が起こる。そうなんです。マスヒロさんの魅力でもありすごいところは、ものごとを見つめる視線が常に冷静で安定感があり的確で、さらに深い愛情が注がれていること。料理評論というお仕事で今までに5,000食を食べてきたそうだが「未だに初めて行くレストランではドキドキする」のだそうだ。使い古された言葉だけれど、少年のように純な心と、大人の真摯な眼差しを持った方というところが、私がマスヒロさんのファンであるいちばんの理由だと思う。


さらにこの後、服飾専門家の奥様もご登壇になってご挨拶。「一年に数度ほどしか自宅で食事をしない主人が、なぜ農事功労賞オフィシエをいただいたのか、先ほどの大使からのお言葉と皆様のお話で、今日初めてよくわかりました」会場からは温かい拍手が寄せられた。本当は奥様はマスヒロさんがどんな活動をされているか熟知されているはずである。それでもこうして言葉を選び、マスヒロさんを奥様の立場で支えていらっしゃるというのは、本当に素敵なご夫婦なんですね。そして最後のマスヒロさんの言葉で思わず私も涙した。「私には妻と娘という2人の宝物がいます。この宝物のおかげで、外で自由に好きなことをさせてもらえているんです。心から感謝します」なんて素敵なご家庭でしょう。お互いの仕事に敬意を持ちながら支え合う。良い家庭は良い仕事を作るというお手本みたいだ。なんと、お嬢さんは一度も反抗期を迎えることなく、20歳になられたのだそうだ。


いただいた記念品は、作り手がマスヒロさんのご友人でもある「ボルドー・プピーユ2009」と「FOODIE TOP 100 RESTAURANTS」。ワインは飲む温度についても丁寧な説明書がつけられており、一本のワインにきちんと愛情を注ぐマスヒロさんの姿勢が伝わってくるよう。実はこの記念品選びにもマスヒロ流が見てとれた。というのはマスヒロさんがご挨拶の時に付け加えた説明が「記念品といっても形に残る物ではいけませんので、皆さんが楽しく飲んでなくなってしまう物と思って、友人が作っているワインを選びました」とのこと。そういわれてみると、お祝い会の記念品って、その方のお名前が入っていたり、好みじゃない物をいただいたりすることもあって、形に残る物は場合によって印象に残らないことがある。自らのお祝いの記念品に"これみよがし"な物ではない「消えもの」を選ぶとは、なんという潔さ。不調法な私は、マスヒロさんから本当にたくさんのことを学ばせていただいている。


マスヒロさん、本当におめでとうございます。
マスヒロ教の信者として(これは林真理子さんの言葉である)
これからもついてゆきます!(笑)
この日、再会が叶った北野さんとマスヒロさんと記念写真!