えとせとら

臆病風が吹いた夜【えとせとら】


極めて臆病である、と思う。加えてかなりマイナス思考だと思う。とにかく悪い方へ悪い方へと考える癖がある。石橋を叩きすぎて割っちゃうものだから、計画する以前に計画がこけてしまうことさえある。「もし●●●が●●●になったら・・・どないしょ〜」と悲観的な妄想をしてしまうのだ。そんな性格なものだから、待ち合わせ時間に遅れるのが嫌で、ついつい早めに到着して待つはめになるし、飛行機は2時間以上前にチェックイン体制に入ってるし、電車は調べておいた時間よりも一本早いのに乗ってしまう。私の人生の中で「待つ」という時間を全部足していったら、多分一年くらいになっちゃうんじゃないかと時々考えている。


その日は楽しみにしていた神戸のレストラン訪問の日だった。前日から松葉蟹の取材で兵庫県と京都府の日本海側の県境あたりにいた私は、当日の朝6時から漁港取材をし、朝9時にはその日の仕事が終了していた。取材クルーと一緒に朝Macした後、何度も電車を乗り継ぎ、神戸についたのがお昼過ぎ。久しぶりにお会いする作家さんを訪ねたりしていたら、あっという間に約束の時間になっていた。予約がとりにくいスペイン料理レストランとあって、期待値はかなり高まっている。ディナーが始まると、香りの生きた繊細な料理に陶然としつつ、同席した方々との会話とワインですっかりいい気分に。6時過ぎには食事をスタートさせていたので、新幹線の最終には余裕で間に合うつもりでいたのだが・・・。名古屋に帰る新幹線の新神戸最終が22:16。最後のデザートが出たのが21:40。そのお店から新神戸駅はタクシーで約10分。「そろそろタクシー呼んでおかないと間に合わないかも」同席した方の一言で、一瞬にして私に臆病風が吹き始めたのである。
というのも、乗り物に関しては大きなトラウマがある。沖縄から名古屋に戻る飛行機にあやうく乗り遅れそうになったり、福岡から名古屋への飛行機では便を遅らせる失態をやらかしている(いずれも同行者ともども時間の読み間違いが原因)。そんなトラウマもあるので、焦って新幹線に乗るよりも神戸に泊まろうかなと思っていたのだけど、一人で神戸に泊まっても面白くなく、神戸日帰りを選択することになったのだ。
で、件のタクシー。呼んだはずなのに21:50になっても到着しない。急いでいるのでもう一度呼んで欲しいとお願いしたが、このあたりで私の臆病風はマックスにさしかかっていた。ギリギリ新神戸についたとして→漁港で買ったカレイの干物やお泊まりセットを駅に預けてあるので→コインロッカーで荷物をよっこらせと取り出しているうちに→みんなは走って新幹線に飛び乗り→私も走るが先日治ったばかりの肉離れが再発してぶっ転び→私と大きな荷物だけが新神戸に取り残され→みんなは新幹線の窓から私に手を振る→さびしいよ〜怖いよ〜どうするんだよ〜と悲しい妄想は肥大化していった。21:57頃に到着したタクシーに乗り込むと、酔いも手伝ってタクシー内で私が大騒ぎ。運転手さんに急いで!と脅すと、周りの友人たちに「マリコさん騒ぎ過ぎ〜」「間に合うから大丈夫だって〜」となだめられ、そうこうしている内に22:07頃に新神戸駅に到着。コインロッカーの大きな荷物を王子様に持っていただいて小走り。東へ向かう新幹線のホームについたのが22:11くらいだったかしら?「ほらね〜待つ余裕あったでしょ!」と友人たちからは白い目で見つめられた。ふ〜〜〜〜ご一緒くださった皆さま、ごめんなさい。


一番上の写真は、そのレストランで最後にいただいたはずのハーブティー。確かヴェルヴェンヌとレモングラスだったと記憶しているのだけど、味をまったく覚えていない。お茶を飲む頃なんて臆病風が吹きまくって頭はテンパッていたので味わう余裕などなかったのである。冒頭に、臆病がゆえ人生において「待つ」時間を足したら一年くらいになるのでは?と書いたが、ここで加筆修正しておこう。臆病がゆえ人生において「ビビる」時間を足していったら、少なく見積もっても三年くらいにはなると思われる。