えとせとら

お肉が熟成するということ【えとせとら】


コラムアップが遅くなってしまいました、熟成肉を喰らう話。ネタまで熟成させちゃいました。今から遡ること2ヶ月前にご近所の美味仲間であるdannaさんから「カルネヤ名古屋会やるよ〜」とお誘いいただき、肉食人間がなんと30人も集った。そう、神楽坂の肉系イタリアン「カルネヤ」の高山シェフが名古屋に出張してくださり、ご近所の「ラ・ヴェンタ・デ・ラ・フエンテ」にて熟成肉の会となったのだ。もちろんプレゼンテーターは料理上手かつホントのグルマンのdannaさんである。
さて、熟成肉とは肉を専用の熟成庫などで保存して、旨味成分を増加させたもののこと。今まで日本の肉文化は、圧倒的にサシ重視&新鮮さ重視だったので、肉を熟成させるという発想自体がほとんどなかった。サシ(脂身)が赤身にどれだけ均等にきれいに入っているかが、人気のある牛肉の物差しだったのである。脂身の少ない上等なフィレ肉もあるにはあるが、まだ旨味が完成されていないまま食すことが多く、熟成という段階にはほど遠いものがほとんどだ。確かにサシがきれいに入った新鮮な牛肉は脂身のコクと甘みが赤身を引き立てて、美味しいお肉であるんですけどね。


熟成させるという発想は、肉食の歴史的先輩諸国である欧州で盛んにおこなわれている。特に野鳥類などは腐る寸前まで熟成させて野性味あふれる獣臭まで含めて食すのが肉食先輩諸氏の贅沢なのである。日本では野菜も魚も新鮮が一番の贅沢であり、魚を熟成させることはあってもせいぜい数日から1週間。その感覚でお肉を食べてきたから、肉の熟成には思い至らなかったのでしょうね。


ところが、この15年ほどだろうか。日本のレストランでも熟成した牛肉を供するお店がぽつぽうと出始めている。近江や神戸といったブランド和牛を、脂身を含めて熟成させたもので、ちょっとエロスを感じるねっとりとした味わいが特徴だ。まだギャニエールが青山にあった頃に、宮崎牛の熟成肉をギャニエール風の料理でいただいたことが鮮明に思い出される。


ところが、このカルネヤの熟成肉には脂身がほとんどない。ホルスタインの4ヶ月熟成を主に使っているとのことで、脂身は共に網で焼くが卓上に上る時には赤身の部分だけが「赤いのに温かい」という理想的なロゼ状態で出てくるのである。実はお肉というのは脂身がないと非常に焼きにくいもの。火は脂身を通して入っていくため、内側に脂身がない肉の火加減は完璧を求められる。その完璧な火加減をやってのけちゃうんだから、さすがに肉焼き名人である。その日のメニューは前菜から最後までお肉のオンパレードだった。中には白味噌や鮎の内臓うるかを隠し味に使ったメニューもあり興味津々。もう肉食人種がまさに肉の塊に食らいつく様子は、見ていても食べていても気持ちが良いものだった。以下、一部のメニュー写真です(普段はお店の料理の写真は撮影しないことにしていますが、この時ばかりは特別に撮影させてもらっちゃいました)牛肉、豚肉、鶉、鹿など、ニクニクしいメニューばかり。



さて、赤身が美味しい熟成肉の話(前フリが長過ぎっ)。脂身たっぷりのエロスあふれる熟成肉と違って、赤身そのものの味わいが深くなっているので、エロスとは真反対の、噛めば噛むほど系のスルメ的な肉質だった。おそらくその牛の餌の穀物系の香りもする。従来の脂身系熟成肉が鈴木京香さんだとしたら、カルネヤの赤身熟成肉は山口智子さん。う〜ん、やっぱりちょっと違うかな。ま、でもつまり、女性だって色気があればイイ女とは限らないわけで、色気はないけどイイ女が赤身の熟成肉といったところでありました。


そしてさらに嬉しいニュース。我が家のご近所でもあるスペインバルのラバノ(カルネヤ会の会場となったラ・ヴェンタ及びラ・フエンテの姉妹店)では、先月あたりからこの熟成肉をメニューにオンリストし始めたのだ。山内シェフが渾身の「焼き」を仕上げてくれる。エロスはないけど味わい深い熟成肉がいつでも食べられるようになったというわけ。これも平成の旦那衆dannaさんのおかげです。ありがとうございました。