えとせとら

死語辞典に下ネタ辞典!?【えとせとら】

先日、ツイッターで久しぶりな方と巡り会った。写真家の初沢克利さん、である。私がまだピチピチで駆け出しの頃に親友の紹介で知り合った写真家で、当時すでにパリ・モンパルナスの一つのカフェを何十年も撮影し続けていた重鎮だった。青山にある初沢スタジオで夜中遅くまで、時に場所をモンパルナスのカフェに移して、赤ワイン片手に怪しげな会話を楽しみながら、生意気盛りの私は初沢さんから多くの薫陶を受けたのだった。パリに長く住んでいた初沢さんは、フランスの知的な部分と激しく接触しているからか、頭の回転が鋭く早く、しなやかな饒舌を持つ人である。だから、年賀状のやりとりと一年に数度のメールを交わす程度でしばらく無礼を重ねていた私は、思いもよらぬツイッターで初沢さんの文章が読めるようになるのは嬉しい驚きだった。なぜなら、初沢さんは写真家である前に文学の人だから。

〜以下、ある日の初沢さんのツイートと私のやりとり〜
初沢さん●樋口一葉の「大つごもり」を読んでいたら「ほまち」という言葉が出て来た。懐かしい。子供の頃母親(明治生まれ)がよく使っていた。これも死語かも知れないが「へそくり」と言う意味。江戸のころのホモは「衆道」。死語をいっぱい知っているが、死語辞典があれば見てみたいものだ。
ワタクシ●それにしても死語辞典、面白い!あったらいいのに辞書シリーズ、下ネタ辞典に続き、リストに加えておきます。
初沢さん●「下ネタ辞典」は作ったら売れそうですね。「死語辞典」と重なる言葉が多いかもね。下ネタには古い言葉がふんだんに使われたり、そのまま生きていたり「松葉くずし」とか。今の若者は裏ビデオからの知識だけでかわいそうだし。(悪のりしてすみません)
ワタクシ●いえいえこちらこそ御意。おっしゃる通り、昔の下ネタは淫美な響きが多いですよね。いやらしさよりも綺麗が際立っていたり。ビジュアルなコピーたったりする。これも私が知るおそらく僅かな限りでそうなんだから、辞典があったらさぞや、と。

これだけ見ても、初沢さんが一級の表現者であるということがお分かりいただけるだろう。(それに比べて私の文章の貧相なことといったら・・・)というわけで、以来、私は死語と昔の下ネタに意識が集中するようになっていった。


古い言葉、使われていない言葉を思い浮かべてみると・・・たとえば青色ひとつをとっても、水色、浅葱色、浅葱ねず、藍白、瑠璃色、群青、灰青と限りなく名前がある。こんな古い表現を知っていても何の得にもならないし、日々の暮らしに役立つわけでもない。でも昔の人は、空の色や涙の色、あるいは哀しい気持ちや嬉しい心を表現するのに、時にはこうした色を用いたのではないかな。古い表現や死語に俄然興味がわいたので、ちょっとずつ調べてみると、面白い言葉が出るわ、出るわ。


女性を表現するのに使われる「きゃん」と「おむく」ご存知ですか?「きゃん」は侠と書き、勇み肌な人のことを指す言葉。そういう雰囲気を持ち合わせた若い女性のことを、きゃんむすめ、と言ったのだそう。一方「おむく」は、文字通り無垢で純真なタイプのこと。現代語で当てはまる言葉が思い当たらないのは、どちらのタイプの女性もいないからかな。


そして初沢さんのツイッターにもあったように、昔の下ネタとか男女の仲を示す言葉には艶やかな色気があった。私が好きな言葉が「後朝の別れ」である。古い歌などによく出てくる言葉で、恋人と過ごした夜が明けた朝の別れのことを表現したもの。ポイントは読み方である。後朝を「こうちょう」とは読まずに「きぬぎぬ」と読むのだ。男女が互いに着ていた衣(きぬ、と言うのだからおそらく着物のこと)を重ねて共寝し、次の朝にはそれを別々に身にまとう時、とても辛くて哀しいという解釈(だと思う)で、美しく切ない言葉ですよね。


そんなわけで、死語に秘められた日本の美をもっと追求したいと思うのだけど、どなたかこの死語辞典編纂話に携わってくださる方はいないものでしょか。ここのところの会合で何度かそんな話をしたところ、アラフォー女子がそれに賛成してくれた。先日我が家でご飯会をした時のメンバー、お隣の由美さん市川りっちゃんがブログにその時のことを書いてくれている。
明治の文学から昭和の死語まで、一つひとつの意味を精査していったらさぞ面白いと思う今日このごろなのです。