えとせとら

音楽の効能【えとせとら】


この一年ほどをかけて行った実家の建替&引越プロジェクトが、この忙しい師走のまっただ中である先々週にやっと終わった。両親が新しい家でなるべく早く日常生活をおくれるように、私たちは膨大な荷物の整理に追われた。週末、姉夫婦や甥っこノゾムが手伝いにやってきてくれた。相変わらず、母の片付け下手や物が捨てられない状況に、またまたイライラが募る私。夏の仮住まいへの引越の時もそうで、その時はイライラしている私をオルゴールが癒してくれたことを、このコラムでも書いた。さて、今回のイライラを癒してくれたのは、なんとノーテンキな甥っこが奏でるギターだったのだ。母と一緒にクローゼットの中を整理していた時だった。何も音源がないはずの新築の家で、エリッククラプトンが聴こえてくるじゃあありませんか。あれれ?と思ってのぞくと、そこには流しのギター弾きのごとく、歩きながらギターを弾くノゾムがいたのである。もちろん彼にとっては、そこにギターがあったから弾いただけなんだろうけど、以前のトラウマがある私には「イライラしないで〜気を休めながらいこ〜」と聴こえてきたのである。


両親のリビングを見て「まるで老人ホームみたいだな」と言って、両親をむっとさせていた甥っこ。真実は人を傷つけるということをまだ知らない弱冠20代半ばの若者だけど、時にこういうノーテンキさが切羽詰まった心を救ってくれることもある。高い授業料を相当払っているとみえて、ギターの腕もなかなかのもの。思わず聴き入ってしまった。焦っても仕方がないのだから、イライラしないで、とギターが私に語りかけてくれたよう。


そして再び驚いたのは、←このオルゴールである。先々週に荷物だけの引越をおこない、人間の(つまり両親の)引越はこの前の日曜日におこなった。仮住まいから身の回りの物を車で運ぼうとした時、またまたこのオルゴールが乙女の祈りを奏でてくれたのである。父が一言。「ウチが引越しようとすると、なぜかこのオルゴールが動くんだなぁ。不思議だなぁ」ホントにそうだった。仮住まいのテーブルの片隅に忘れ去られていたはずのオルゴールを、母が思い出して玄関先に置いたところ、チリンチリンとわずか2音だったけど鳴らしたのである。思えば、暮らしは音楽であふれている。テレビやラジオから聴こえてくる音楽はもちろん、人が集まる場所ではストリートミュージシャンが唄っていたり。それを好むかどうかは別にして、隣家のオジサンが湯船に漬かりながら鼻歌を口ずさむのも立派な音楽だし、水道の蛇口からしたたる水の音も、聞きようによっては音楽である。私たちは音楽に寄り添いながら暮らしているんだなぁ。


実は今年はまだ仕事納めができていなくて、多分今年の仕事納めが来年になりそうな気配(苦笑)。思うように仕事がはかどらない今日このごろなのである。そこで、オルゴールの教訓で学んだように、今日の私は音楽をかけながら原稿を書いている。言葉が耳に入ってくると原稿に集中できないため、私が持っているCDのほとんどが器楽曲なのだけど、たまには気分転換も兼ねて歌声を聞きながらのデスクワークだ。うん、たまにはいいなぁ。仕事しながら歌声を聞くのって。というわけで、年末ぎりぎりまで音楽で癒しながら頑張ってお仕事に勤しむことにいたします。皆さん、良いお年をお迎えくださいませ。