えとせとら

クレーマークレーマー!?【えとせとら】

企業の消費者相談室に寄せられるクレームの内容が、このところ複雑化と悪質化の一途をたどっている、と、どこかの雑誌で読んだ覚えがある。純粋なクレームには真摯に対応するべきだが、悪質な嫌がらせや言いがかり的なクレームには、モンスターペアレント問題同様、専門家によるチームが結成されたりしていて、企業側もかなりご苦労されているようだ。


何を隠そう、実はこのたび、私もそのクレーマーになってしまったのである。もちろん決して言いがかり的なクレーマーではなく、純粋に調査して欲しいと思ったので電話をかけただけ。でも、もしかすると先方の担当者にとっては、タチの悪いクレーマーと映ったかもしれない。その実情をここで吐露してみよう。


私がクレームを入れたP社は、洗剤、化粧品、ヘアケア商品など幅広い商品群で有名な大企業である。誰もが一度は手にしたことのある商品ばかり。その中で、私のお気に入りはポテトチップスだ。おやつに、時にお酒のおつまみに、そのポテトチップスのサワークリーム&オニオン味を好んで買うようになってもう何年もたつ。他社の商品と比較して味が良いのはもちろん、添加物を使用していないので舌が荒れないということもお気に入りの理由だった。
約一ヶ月前のある日、いつものようにサワークリーム&オニオンを買って、おやつに食べてみると、驚くほどしょっぱいのである。ポテトチップスと言えば、これしか食べない私には、一口食べてすぐに判った。こんなにしょっぱい味じゃなかったはず、と15枚ほど食べていくと、あっという間に舌の先が荒れてしまったのである。これは明らかにおかしい。数日経って、迷ったあげく、P社の消費者相談センターに電話をして状況を説明してみた。


すると先方の担当者は開口一番「それでは代わりの商品をお送りさせていただきますので・・・」と言うではないか。いやいや、私は代わりの商品が欲しいわけでも、文句をつけているわけでもなく、長年に渡って食べている大好きな商品に何か問題が起きているのではないかと心配になって電話しているのであって、目的は原因を調べてもらうことである。なのに、担当者の女性は代替品を送ることで話を終わらせているかのように聞こえた。仕方なく、私は冷ややかに(おそらく先方には冷ややかに聞こえたことだと思う)ロジカルに話を付け加えた。「何年も同じ商品を食べていますが、舌の先が荒れたのははじめてなんです。代わりの商品は送っていただかなくてもいいので、原因を調べてください。健康被害というほどのことではありませんが、他に同じ症状を訴えている方はいませんか?」と。すると、相手の女性は慌てて「申し訳ありません。それではその商品をすぐにお送りください。こちらで調べさせていただきます」と言ってきたのである。最初っからそー言うべきなんじゃないの〜?と思いつつ、こういう電話は録音されているはずなので、平常心を装って「では、よろしくお願いします」と答えて電話を切る。
数日後、着払いの宅配便伝票が送られてきたので、残ったチップスが割れないようにクッションをはさんでパッキングし送り直した。それから約1週間後にP社より電話が入った。今度はクレーム対応してくださった方とは別の女性である。「このたびはお客様に健康被害をもたらしてしまうことになり・・・」長々とお詫びの言葉から始まった。せっかちな私は先方のお詫びの言葉を最後まで待てずに「で、どうだったんですか?調査結果は出ましたか?」とせかすように聞いてしまった。
彼女が丁寧に説明してくれた経緯は、こうだ。[そのポテトチップスは、油で揚げてから調味料をふりかけるが、調味料をふりかける工程でなんらかの原因で少し多めの調味料がかかってしまった。はっきりとした原因は今となってはわからない。その結果、たまたま私が購入した商品の味が濃くなってしまい、しょっぱいと感じたのではないか。ただ、余分にふりかかった調味料は微量で、体に害のあるものではないので安心して良いだろう]
私の予想は、こうだ。[工場の調味料を入れているボックスがなくなってしまい、調味料の新しい袋を社員の方が上から追加しているちょうどその時、たまたま調味料が余分にかかってしまったほんの数秒の工程のポテトチップスがパッキングされ、これがたまたま偶然に私の手元にやってきてしまった]


というわけで、無事、私のクレームは納得する形で報告してもらえ、お詫びと称したP社の商品が2つ宅配便で届き(一応タチの悪いクレーマーだと思われたくなかったので、お詫びの品を受け取ることは固く拒否したのだけど、なんとなく先方のだめ押し営業にあい、受け取ることになってしまった)、一件落着。
プチクレーマー事件を振り返ってみて改めて思う。クレームこそ、企業のイメージアップのチャンスである、と。一番最初に対応してくれた女性の、代替商品の郵送で話を終わらせようとする態度には、正直むっとした私だが、その後のきめ細かな対応にはさすがP社と納得できたのである。悪質と言われているクレームだって、企業側の対応の悪さが原因で発展することだってあるはずだ。そして、これは私の仕事にも十分通じること。クレームを言われた時こそチャンス、と20代のころ先輩に教えてもらった格言を思い出しながら、大好きなサワークリーム&オニオンに手を伸ばした。