読書する贅沢

別れの言葉はいらない【読書する贅沢】

「約束のつばさ」という児童小説が先月刊行された。
これは高校時代の同級生・岡田新吾氏の作品だ。
岡田くん(高校時代の通り君づけさせていただきます)とは高校を卒業してから交流がなかったが、偶然名古屋で15年ぶりくらいに再会した時は、お互いに同じコピーライターの仕事に就いていた。

その後、岡田くんは広告会社を設立し、写真ギャラリーをオープンさせ、
とうとう夢のひとつであった児童小説を出版させた。
我が同級生ながら、あっぱれな活躍である。


「約束のつばさ」は、戦争で命を落とした男が、一人娘に会うために、
天国からやって来て、主人公の小学生と交流をするお話。
児童小説ながら、読みごたえのある文章と中身の深さに、
児童向けということをすっかり忘れて読み進んでしまった。
出逢いの喜びと別れの切なさが、小学生の目を通して描かれていく。
子供だけでなく、大人にも読んで欲しいと思える小説だった。


読み終わったばかりのこの本を、昨夜もう一度読んでしまったのには、理由がある。
昨夜のこと、仕事(と呼んでいいかどうかわからないけど)で6年近く共に過ごしたクルーが
新天地へと旅立ったのである。
いろんな想いを共有し、苦しみ、笑い、時に嘆き、楽しんで、
経験を積み上げた大切な仲間だったので、
万感こみあげるものがあり、不覚にも何度も涙を流してしまった。

「約束のつばさ」では、天国からやってきたおじさんは別れの言葉を言っていない。
「いつになるかわからないけど、きっともどってくる」と言っている。

新天地へと旅立ったN氏とF氏とも、私は別れの挨拶はしなかった。
約束のつばさ、ならぬ、約束の一皿で、きっと近いうちに会えると確信できるから。