読書する贅沢

坂の上の雲 司馬遼太郎【読書する贅沢】


約30年ぶりに読み始めた、坂の上の雲。本屋さんで本棚から八巻の文庫本を片手で一気に抜くという作業は、手がデカイと認識している私にとってとても気分の良いものであった。この小説をもう一度読もうと思ったキッカケは、もっちろん松山への旅である。というわけで、松山"旅の手帖"第3弾。


「坂の上の雲」は、中学生の時に社会の先生から勧められて読んだことがあって、その時は特に感慨もなく、なんとなく読み進んでしまったという印象しか残っていない。今回は、NHKのドラマを観ていたこと、そして松山で「坂の上の雲ミュージアム」を訪れたことが、再読への想いを駆り立ててしまったらしい。安藤忠雄さん設計による「坂の上の雲ミュージアム」は、建物そのものの面白さはもちろんだけど、文字中毒の私にとっては"ここに住めたらいいのに"と思うほど魅力的な場所だった。小説の文章に沿って、歴史と地域の文化と秋山兄弟及び正岡子規の一生がわかりやすく展示されているのだから、文字中毒者なら、ここに10日ほど滞在してじっくり廻りたい!と思うはずである。「坂の上の雲」がお好きな方には、是非来訪いただきたいミュージアムである。さりとて私は同行者もいたので、あまり夢中になりすぎるのも社会通念上よろしくなく、適度に切り上げてミュージアムを後にし、さくさくと道後温泉へと向かった。


道後温泉と言えば、木造三階建のこの景色ですよね〜。
温泉とは言っても、香りがほとんどないさらさら系のお湯なので、
温泉街にありがちな硫黄の匂いに閉口することもなく、
ひたすらミーハーに観光を楽しめばよい。



夏目漱石の「坊ちゃんの部屋」のお隣のお部屋をオーダーして、しばし坊ちゃん気分を味わっていたら(写真左)、意外に美味しい坊ちゃん団子なるものをお茶受けに出してくださり(写真中央)、道後温泉のシンボルマークでもある温泉の湧き出るデザインがあちこちに使われているのを見つけて(写真右)、なんだか良い気分になっていた。温泉では、お隣にイギリス人と思われるうら若き女性が一緒になり、温泉のあれこれについて、かなり下手っぴな英語で会話しつつも、うら若きイギリス人女性と素肌をすり合うも多少の縁とばかりにすり寄っている自分のオヤジ度に嫌気がさし、すごすごと坊ちゃんのお隣のお部屋に戻って、文学にふけていた頃、窓の外から完全に酔っぱらったオヤジたちの嬌声が聞こえてきて、あ〜あ私もあのオヤジ殿と同じだな〜と感慨にふけった初春の松山であった。


でも正直なところを申せば、坂の上の雲のドラマを見ることにしたのは、結局はもっくんが好きだというにほかならず、さらに松山市内の随所に貼られている「坂の上の雲」のポスターには当然ながらもっくんがかっこ良く映っているわけで、それを見るたびにうっとりしつつ同行者をあきれさせ、あげくの果てにはそのポスターのもっくん部分を写メして待受画面に設定するなどという、広告屋としてはやっていはいけないことに夢中になった。


毎晩読み進んでいる小説にしたって、秋山真之はイコールもっくんであって、他の誰でもないわけで、結局のところ、人間の欲はこんな単純なところから生まれているのだなと思う今日このごろである。だってかっこいいんですもの、もっくん。最近第三子ご誕生とのことで、そのご子息の名が「玄兎 げんと」というらしい。これは古語でお月様のことを指しているらしく、お月様好きな私はいっぺんに心臓を打ち抜かれた気持ちになってしまった。こんなことにうっとりしている四十オンナですが、みなさま、許してくださいますかっっっ???