読書する贅沢

宮尾登美子・きのね【読書する贅沢】

4月の御園座では、予想以上に(失礼!)海老蔵丈の素晴らしい舞台を堪能したので、
久しぶりに「きのね」が読みたくなった。
先々代の市川団十郎をモデルにした小説で、歌舞伎の名門である市川家がどのような戦中戦後を過ごしたか、女中であった主人公が忍耐を繰り返してどう生きたかが見事に描かれた傑作である。
「きのね」に登場する歌舞伎役者の雪雄は、
私の中で勝手に現代の海老蔵丈のイメージと重なってしまった。
何度読んでも新しい感動がある小説なのだが、
今回はセレンディピティを感じる箇所が二度もあったのだ。

「きのね」の直前まで読んでいたのが、石田衣良の「眠れぬ真珠」だったが、
なんとこのふたつの小説に、まったく同じ場所と人名が使われていたのである。
「きのね」で雪雄が結核の療養をするのが葉山の披露山、
主人公の父の名前が清太郎。
「眠れぬ真珠」では物語の舞台が葉山の披露山住宅街で、
主人公に関わる男性の名前が清太郎だったのだ。



「たまたま一緒だっただけ」と言ってしまえばそれまでだけど。
描かれた時代も小説が制作された時代も作家も違うのに、
まったく同じ名前が2カ所も登場したふたつの小説を、
連続して読破したというのは、
読書好きが一人勝手に悦に入るには十分な条件だった。

、本を読んでいると、
「そうそうそう!」と声に出していることがあり、
一人で喜んだり悲しんだり、納得することが多い。

こういう「一人勝手に悦に入る」ことこそ、
読書の醍醐味のひとつだと思うのですけれど、
いかがなもんでしょうか。

それにしても、宮尾登美子と石田衣良を続けて読むなんて、
我ながら、かなりの乱読タイプだなぁと実感したわけです。