おうちごはん

ピクニック日和の季節は過ぎて【おうちごはん】


毎日ほんとにあっつい。まだかろうじて6月ぎりぎりだというのに、人と会って第一声は「ほんとにあっついですね〜どうなっちゃうんだろう、今年の夏・・・」が定番の挨拶になっている。でも、ホントにどうなっちゃうんでしょう、今年の夏は。前々回のコラムにも登場した農業を趣味にしている父によると、農作物の成長具合から想像するに、今年は梅雨寒の冷夏だったはずなんだけどなぁ。やっぱりなんちゃって農業のサブちゃんには天候までは読み切れなかったようです。


父の趣味が農業なら、娘の私は父作の野菜をせっせと料理して、お弁当箱に詰め、ピクニックに出掛けることを趣味にしていた。4月から入梅までは春先のお花がきれいだということもあって、毎週のようにピクニックしていたのである。我が家は都心にしては珍しく、お花見スポットが点在している。歩いて数十秒のセントラルパーク、歩いて15分くらいの名城公園、東区の有名な早咲き桜の通り、ちょっと自転車で走って鶴舞公園。桜にはじまり、藤、鈴蘭、薔薇、燕子花に菖蒲、紫陽花、紫蘭・・・。お花見が目的なのか、お弁当が目当てなのかは自分でもよく分からなくなっているのだけど、とにかく外でお花を愛でながらシャンパンを飲み、お弁当をつつくというのに、この上もなく幸せを感じるのである。


これは母から譲り受けた飛騨春慶のお弁当箱で、母のお嫁入り道具の一つ。亡き祖父による毛筆で「飛騨春慶信玄弁当箱十組」と書かれた桐箱から六組ほど私が持ってきちゃったものだ。プラスチックの完全密閉式のお弁当箱の方が、お汁はこぼれないし傷もつきにくく、扱いやすいんだろうけど。せっかく母が譲ってくれた物なので、ここのところ頻繁に使うようにしている。最近の我が家パーティーでは前菜を入れておもてなしをしている。ピクニックの時はおかずを詰めたらラップをぴっちりかけてその上から蓋をし、さらに手ぬぐいでくるんで持ち運ぶ。平行に持てばお汁はこぼれないし、手ぬぐいでくるんでいるから傷がつくこともない。漆塗りの器に入れると、ただのおかずも美味しそうに見える。この飛騨春慶信玄弁当箱のおかげで、大切なものはちゃんと大切に扱えば、ずっと長く使えるものだということを改めて実感している。思えば、高校生の時のプラスチック製お弁当箱なんてかなりぞんざいに扱っていた。自転車の籠に入れてびゅんびゅんすっ飛ばしていたし、食べ終わった後なら、鞄の中で弁当箱の天地がひっくり返っていてもおかまいなしだったもの。ところが、この飛騨春慶のお弁当箱は、食べ終わったらナフキンで中のお汁をきれいに拭き取り(漆が傷まないようにね)、またラップをかけてから蓋をして、手ぬぐいにもう一度くるんで、平行にして持ち帰る。家に帰ったら、ぬるま湯でさっと洗って、乾燥したらすぐに片付ける。プラスチック製とは扱いがまったく違う。でも、大切に扱う分だけ愛着も深くなるのだ。


長野県塩尻市贄川の小学校では、給食の食器に地元の伝統工芸品である木曽漆器を使っている。当初は子供が扱いにくいし高価な漆器が傷むのでは、という心配の声もあがったという。ところが実際に漆器で給食を食べるようになると、子供たちは自然に漆器への親しみを感じて丁寧に扱うようになり、地元の工芸品であることに誇りを持つようになったのだとか。子供たちだって、プラスチック製の味気ない食器で食べるより、漆器の方が美味しく感じるに決まってる。その漆器給食の取り組みは、簡単だから・安心だから・安価だからという理由で、物事の価値判断を子供に押し付けてきた大人へのアンチテーゼになったのではないか。


上の写真は名城公園の広場にて。←の写真は同じく名城公園の見事な藤棚。ここの藤棚は本当に素晴らしいので必見だ。
さぁて、暑過ぎてピクニックには出掛ける気になれない今日この頃。次の楽しみは何にしようか考え中である。なにか楽しげなアイデアがあったら、教えてくださいまし〜。