おうちごはん

丹波の牡丹鍋【おうちごはん】


手持ちのデジカメで撮影してパソコンに保存していた写真を大量に紛失してしまい、ちょっと困ったことになってしまった。名称未設定フォルダに入れていて、いつかタイトルつけなくちゃ、と思っていた矢先に、どうやら間違えてゴミ箱に入れちゃったみたいなのだ。あ〜あ、40を過ぎてのケアレスミス、なんとかして欲しい。というわけで、牡丹鍋は2月のメニューだったんだけど、かろうじて昨年のしし肉の写真が残っていたので、これをネタにさせていただく。
さて、二ヶ月も前の話なのだけど、一年のうちで私の仕事が一番忙しくなる2月というのは、悔しいことに美味しいものが多い季節でもある。毎年、寒のお魚を食べなくちゃ、あんこう鍋に行かなくちゃ、あのお店の鴨は絶対にはずせない、ジビエが終わっちゃう・・・と食べるのにも忙しい季節となるので、仕事と食べることのスケジュール調整が本当に大変な月となる。この牡丹鍋もそうなのだ。8年ほど前に丹波篠山で食べてから衝撃を受けて、何年か通って作り方を研究し、以来毎年2月にしし肉を取り寄せ、3日ほど秘伝の味噌を練って加熱しまた寝かす作業を繰り返し、熟成したシャルドネを用意して、その日を迎える。牡丹鍋にあまり良い印象を持っていない人がいたら「騙されたと思って食べてみて」と誘って、我が家で牡丹鍋パーティーをしている。ただし、3日の作業工程があるので、仕事とのスケジュールが最も気がかりにはなるのだけど、その苦労をしてでも食べたい、いや、食べさせたいと思える味になるのだ。


そんなわけで、毎年2月に開催する、とは言っても、スケジュールの都合上、せいぜい2回くらいが限度。昨年いらっしゃった方は早くから予約(!?)が入るし、新たにお誘いしちゃった方もいるので、私は戦々恐々と味噌づくりに励まねばならない。写真がないので残念なのだけど、今年お誘いしたメンバーを改めて考えてみたら、なんとそのほとんどがプロの料理人ばっかりだった。第一回目は、和食料理人の関尾さん、半田のヌーベルシノワの新美シェフ、飲食店のプロである恵子さん、そしてルマルタンペシュールの那須ソムリエ、唯一飲食店関係ではなかったのがとあるアパレル会社社長でグルマンの丹羽さんというメンバーだった。第二回目はご近所のスペイン料理ラ・フエンテの山内シェフ、フランス料理ヴァンセットの青木シェフとマダムと香保里ちゃん。第二回目は100%料理人ばっかり。あとで振り返ってみると、心臓強いな〜と我ながら思うのだけど、ホントにこの牡丹鍋は美味しいんだから仕方がない。


肉料理は圧倒的に日本よりもヨーロッパの方が歴史もあって料理法も豊富だと思われがちなんだけど、実は日本だって山の中に行けば昔からお肉を食べていたし、地元の人々は美味しい食べ方をよく知っている。少なくとも、私が知っているヨーロッパのいのしし肉は、もっとかたくて臭みもあるし、逆にその香りを野性味と称して好むのがヨーロッパスタイルだ。日本のジビエは逆である。お肉を寝かさずに適度に休ませる程度にしてから出荷するので、獣臭が少なくて熟成感はほどほど。特にこの牡丹鍋は、脂身が激ウマなので、熟成が進みすぎない方が美味しいのだ。このねっとりバターの風味を持つ脂身が、熟成したシャルドネによく合うんですよ。昨年も食べてる山内シェフが今年は"シェリー"を持ってきてくれた。うむ、シェリーもなかなかの組み合わせでしたよ、確かに。
まだまだ知られていない日本の山奥には、きっといろんなジビエ料理があるはずだ。地酒を呑みながら、地元の貴重なタンパク源を粗野でシンプルな調理法でいただく。それは村人たちの一番のごちそうだ。こういう料理に出逢うと、私も地方の食材や調理法を探して歩く旅をしてみたいなぁと思う一方で、そういうごちそうは、外からスポットを当てることなく地元の人が大切に食べ継いでいくべきものだという思いもよぎる。そうだな〜、来年も夜中に一人でお味噌を練りながら原稿に向かう2月を過ごすことにいたします。